第54話 お前、嫁ぐんじゃねぇからな



 こうして新しい仲間を得た『竜撃パーティ』、俺は雑用係として洞窟内に転がる魔物の遺体から、素材とりそうな部位を切り取り回収する。

 冒険者ギルドに提出すれば討伐した報酬として換金してくれるからだ。


 ちなみにビャンナが残した奴の両角も、魔族を討伐した証となる。

 換金すれば結構な報酬額になり、武器や魔法の素材として使用も可能だ。


 まぁ1000億Gの借金を抱える俺達は当然前者となる。

 フォルセア王国から定期的に借金取りが来るらしいからな。


 など作業しながら考えていると。


「グレンくん。その魔族の角、お姉さんにちょーだい、ね?」


 エアルウェンが艶っぽい声で言ってきた。


「ん? いや借金に回そうと思っているんだけど……姉さん、何に使うの?」


「ビャンナって魔族が使用していた《隠密行動魔法ステルス》を読み取り貰うのよ。魔族の《特異改良魔法ユニークマジック》は唯一無二の高度魔法だから捨てちゃうのは勿体ないわ」


 そういや魔法士であるエアルウェンは、魔族からの魔法採取が目的で自ら勇者パーティに志願したと聞いている。


 イクトが勇者をしていた時は、奴が調子に乗ってオーバーキルするもんだから角ごと消滅させてその機会が無かったんだ。

 だから余計、エアルウェンはイクトを嫌っていた背景がある。


「わかったよ。貴重な戦力増強として、エアル姉さんに預けるよ」


「ありがと、やっぱグレンくんって最高だわ。お姉さんも素材回収を手伝ってあげるね」


 エアルウェンは片目を瞑り、俺の仕事を手伝ってくれた。

 それを見たアムティアとリフィナも「私達も手伝います!」と謎の張り合いを見せ、パルシャも「みんながやるんならパルも手伝うニャッ!」と獣人族らしい集団意識を見せ始める。


 おかげで斃した全魔物の素材を回収できた。

 あと魔物の遺体その物は、冒険者ギルドに依頼し処理専門の冒険者達が対応してくれる筈だ。



「――っというわけで鉱山に住み着く魔物達は全て討伐した」


「マジかよ……あのグレート・オーガに勝ったってのか? あんたら一体何者だ?」


 鉱山の洞窟を出て避難所小屋で待機している、四級冒険者のハンス達と合流し知らせた。


 実は魔族の幹部が率いる魔王軍だったことは伏せてある。

 余計な混乱を招くべきではないし、あくまで俺達『竜撃パーティ』の任務だから。

 無論、王妃のセイリアには《言霊の鳩魔法ラグ・ピジョン》で知らせておくけどな。


「まぁ色々とワケありでね……。それとパルシャは貰っていくぞ」


「うにゃ。パルはグレンの女になったニャ」


 やめろ、おまっその言い方! みんな誤解したらどうする!?


 案の定、ハンス達は顔を引き攣らせ「別にいいけど、あんたも物好きだな……」とドン引きしていた。

 元々急造パーティだからか、仲間を取られても別に構わない様子だ。



 それからハンス達と別れ、ギムルの所へと向かう。


「そういや、パルシャ。お前、あれだけ腕が立つ割には五級冒険者って随分と低い等級だよな? いつ冒険者になったんだ?」


「つい最近ニャ。師匠から『お前はアホだから、まともに算数ができるまで冒険者は無理だ』と言われ、必死で勉強したニャ。1+1は3……完璧ニャ!」


 うん、間違っているぞ。

 てか、やべぇな……アホすぎて悪質冒険者から報酬とかカモられるタイプだ。

 きっとギムルはそこを心配しているのだろう。



 そんなギムルが住む鍛冶場にて。


「――おおグレン、パルシャも無事で何よりだ。流石は竜戦士、まるでブランクを感じさせんぞ」


「ギムルが師匠だけに、弟子のパルシャも相当な斧使いの戦士だと理解したよ。大事な弟子を有難く借りるぞ。これで魔王軍やつらと戦える」


「そうか……グレン、やはりお前さんは竜戦士だ。魔王に呪われていようと、瞳の輝きはあの頃のままだ。パルシャよ、グレンから沢山のことを学ぶがいい……特に教養」


「うにゃ師匠。パルを拾ってくれてからの10年間、本当にお世話になったニャ。お嫁にいく嬉しさと、ほんの少し寂しい気持ちで胸がいっぱいですニャ」


 ……ん?


 いや、それ結婚式で花嫁が両親に向かっていう台詞じゃねーか。

 お前、嫁ぐんじゃなくて、俺らと魔王討伐の冒険に旅立つんだからな。


 ひょっとしてヤバイ娘を仲間にしたかもしれないと思いつつ、戦友ギムルと別れた。



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