第53話 うにゃ、いいニャ



 俺によって『隠密のビャンナ』は斃された。


 丁度、3分。

 限界時間を迎えたところだ。


 《呪われし苦痛カース・ペインの予兆を感じ、急いで戦闘態勢を解いた。

 すると皮膚に浮き出されていた黒い血管が消失し静まっていく。


「危なねぇ……尋問しながらだと、どうしても時間を食ってしまう。やはりタイマン向きか」


 それでも戦えるようになっただけ遥かにマシだ。

 この腕輪をくれたシジンには感謝しかない。


 などと思いながら、パーティ達の戦況を確認する。



 三体のグレート・オーガのうち、既に一体は斃されていた。

 頭部から唐竹割りの如く斬り裂かれていることから、パルシャの一撃によるものだろう。


 残り二体のうち一体はエアルウェンの魔法攻撃で肉体を貫き斃される。

 最後の一体をアムティアが単身で戦っていた。


 ちなみにアムティアも【竜式戦闘術】が使える。

 俺の弟子となり早11年目で才能と努力があっての習得だ。

 基礎となる呼吸法と竜気は既に習得している。


 しかし竜戦士となった俺には遠く及ばない。

 竜気のエネルギーを体内で循環させ肉体強化はできるが、体外に放つ竜波を自在に操作するまでには至らなかった。

 せいぜい刀身に竜波を纏わせ武器の性能を上げることくらいだ。


 だから当然、竜眼は使えない。

 それでも高速剣術に長け、並みの剣士を圧倒的するほど強い。

 また国王直々に仕える王宮騎士団の中でも『金色こんじきの姫騎士』と呼ばれるほどの高い実力を誇っている。



竜演舞リュウエンブ!」


 アムティアの剣技が炸裂した。

 グレート・オーガの攻撃を掻い潜り連撃を浴びせたのだ。


 美しき金竜が踊り舞うが如く――。


「グガァァァ!」


 グレート・オーガは鋼の肉体が激しく削られるも咆哮を上げ反撃する。

 手数の割には致命傷を与えてない。


 竜気により肉体が強化されても、攻撃転換する際の竜波の威力が低い証拠だ。

 とはいえ相手は上位クラスの魔物だ。

 並みの剣士でも傷を負わせるので精一杯だろう。


 それでも師として厳しい目で見なければならない。


「――アム! 呼吸に意識しろ! 竜気を高め、正しく竜波へと繋げるんだ!」


「はい、師匠!」


 アムティアは攻撃を回避しながら即答し、言われた通りに深呼吸を繰り返し集中する。

 すると刀剣の刀身が竜波エネルギーに覆われ一気に放出されていく。

 同時に彼女の眼光も鋭く変わった。

 

「コォォォォォ――竜瞬殺リュウシュンサツッ!」


 それは肉体を極限まで高め、瞬時に間合いを詰めた閃光の斬撃。

 必殺の刃は見事にグレート・オーガを袈裟斬り捉え巨漢を一刀両断させた。


 アムティアは持てる力の出し切り、その場で片膝を着く。

 技を使用した後、激しく呼吸を乱しているのは高めた竜波を一気に放出してしまったこと。セーブ出来ずコントロールに無駄があるからだ。


 まぁ勝ったことだし、合格の範囲だろう。


「よくやった、アム。腕を上げたな」


「はい、師匠……いえ、まだまだ未熟だと痛感しています」


 あくまで謙虚な姿勢のアムティア。

 だからこそ褒めて伸ばせる。この子はまだ強くなる筈だ。

 俺はそう見込んでいる。


「……アム様、大丈夫?」


 リフィナが駆けつけ、アムティアの疲労を回復させている。

 既にエアルウェンとパルシャも回復済みのようだ。

 年端もなく影の薄い子だが、回復術士としての腕は抜群で仕事が早い。


「グレンくんも終わったみたいね?」


「ああエアル姉さん。魔王の情報は聞き出せなかったけど、『七厄災』とかいう最高位の幹部情報は得られたよ」


 ワネイア王国を占拠しているとする、『雹炎ひょうえんのヘルディン』。

 そいつからなら新しい魔王の情報が得られる筈だ。

 やっぱりイクトがいない方が超スムーズなんだけど(苦笑)。


「ニャーッ、魔族の幹部を一人で斃すなんて、オジちゃん凄いニャッ!」


 獅子系獣人族ライオットのパルシャが大きな瞳をキラキラさせながら感心する。


「オジちゃんはやめて……グレンと呼んでくれよ。それよりパルシャ、俺達のパーティに入ってくれないか? そのためにキミを探しに来たんだ。師匠のギムルからも許可を貰っている」


「うにゃ、いいニャ」


 あっさりと引き受けてくれる、パルシャ。

 知能が低そうなだけに、下手にゴネることがなく有難い

 イコール騙されやすい娘っぽいから、大人の俺が正しく導いてやらなきゃならん。



―――――――――――


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