第52話 生かすわけねーだろ



「質問を変えるぞ。一度斃されたら1世紀は現れることのない魔王が、何故今回に限り15年後なんだ? 以前の魔王……『ディザーク』が生きているのか?」


「ど、どうして……貴方がディザーク様を知っているの?」


「質問しているのは俺だ!」


 もう一度、刀剣を抜きザクザクと連続して刺してやる。

 ビャンナは「ギャァァァ!」と悲鳴を上げた。


「痛い痛い! 許してぇ! 何でも言うこと聞くから、お願い、お願いします!」


 こいつガチで演技が上手い……つい良心が咎められそうになる。

 だがもう残り1分を切ってしまった。

 早く情報を聞き出さないと、《呪われし苦痛カース・ペインで俺の身が持たなくなる。


「だったら早く答えろ。次はないぞ」


「ワ、ワタシだって、いえ魔族のほとんどが魔王様の出現に驚いているわ……けど『七厄災しちやくさい』の誰かなら理由を知っていると思う」


「七厄災? 聞いたことがない。何だ、それは」


「魔王軍の最高位に君臨する7名の大魔族よ。全員が公爵の地位にいるわ……大半は前魔王軍で生き残った幹部達で構成され、中には出世して成り上がった魔族もいるみたいよ」


「つまり新しい魔王の懐刀って地位か?」


「ええ……きっと全員が、ワタシなんかじゃ足元にも及ばない《恩寵能力ギフトスキル》級の魔力を秘めているでしょうね」


「なるほど。んで、そいつらはどこにいる?」


「全員は知らない……けど、ワタシに指示したのは『雹炎ひょうえんのヘルディン』という『七厄災』の一人よ。この国から北方にあるワネイア王国を占拠しているわ」


「ヘルディン? 聞き覚えがある魔族だ……そいつから情報を仕入れるか」


 俺は『竜月』を抜き刀身を鞘に収めた。

 そのままビャンナから離れる。


「た、助けてくれるのね……ありがとう、竜戦士様」


 ビャンナは大粒の涙を流し感謝を述べている。

 俺は無言のまま、奴から背を向けた。


 だが刹那、俺の背後に醜悪な殺気が突き刺さる。


「バカめ! 所詮は低能な人族よ――死ねぇ!」


 ビャンナは隙ありと言わんばかりに起き上がり、魔法攻撃を放とうとする。


 が、


「……あ、あれ? おかしいわ……魔法の構成ができない」


「そうそう、二つほど言い忘れたことがある。一つは俺の愛刀、『竜月』に斬られた敵は一時的に精神を奪われてしまう」


「精神を奪うですって!?」


「ああ、その通りだ。確か現代における魔法学上、魔法を発動するのに脳内で構成と術式をイメージし魔法陣を出現させるプロセスを踏む必要があり、その過程で精神力による魔力の供給が不可欠だったな。つまり俺は、その供給部分を奪ったことになる」


「う、嘘よ……だってワタシ、こうして貴方と話すことができているわ! もし精神を奪われていたら会話なんて不可能よ!」


「それも『竜月』の効力だ。俺の親友が丹精を込めて作り上げたな繊細かつ至高の逸品……お前を尋問するため、精神の全て奪うのではなく部分的に調整することが可能なんだ」


 俺の説明に、ビャンナから「チッ」と舌打ちが聞こえる。

 かと思うと、またもや大きな瞳から涙を零し始めた。


「ご、ごめんなさい……そんな、つもりはなかったの。なんでも言うこと聞くから助けて許してぇ……お願い」


「もうワザとらしい演技はやめろ。さっきも言ったろ、俺は魔族を信用していない」



 ――パァァァン!



 突如、ビャンナの心臓部位が内部から破裂し抉られる。

 奴は何が起こったのかわからず、形相を歪ませたまま開かれた大口から吐血した。


「……がはっ、こ、これは?」


「二つめだ。ブッ刺していた『竜月』の刀身を通して『竜波』を流しておいた。お前が動いたら、循環されている『竜波』が心臓に集結して弾け飛ぶ仕組みだ」


「テ、テメェ……最初からワタシを殺すつもりで……生かしてくれるって言ったじゃない、嘘つきぃぃい!」


「自分を知れ。お前、子爵だろ? そこまで出世するのに、これまで何百人の種族達を食い殺してきた? んな奴、生かすわけねーだろ」


「チクショウ――……」


 ビャンナは残された上半身から徐々に増殖するかのように漆黒色に染められていく。

 全て染まりきった瞬間、頭部に生えていた魔族の証である二本の角だけを残し、肉体は砂上の楼閣のように脆く崩落する。


 そのまま塵と化し風に吹かれ散った。



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