第51話 お前が一番容赦ねーじゃん



 俺の一刀により胴体を真っ二つにされた、ビャンナが地面に転がっていく。

 取り残された下半身は漆黒色に染まり灰のように崩れて散った。


「あっ、が……嘘よ! 本当に人族が竜戦士なんてぇ!」


「嘘じゃない。さてはモグリだな、お前」


 俺は片足でビャンナの上半身を踏みつけ、肩に目掛けて刀剣の切っ先を突き刺した。


「い、痛い! やめて殺さないで! お願い!」


 両目いっぱいに涙を溜め、必死に許しを請うビャンナ。

 見た目こそ、愛らしい美少女だけに普通なら心が揺れ動き情も沸いてしまうだろう。


 が、俺には通じないがね。


「命乞いが随分と迫真の演技リアルだ。練習したな? お前ら魔族が人の感情を揺さぶり操るのを得意とする……これまで吐き気がするほど見てきているんだよ」


「なっ――うっせぇ、テメェ! ブッ殺してやるぅ!!!」


 ほらな、これが魔族の本性だ。

 命乞いが効かないと判断した途端、醜悪に形相を歪ませ恐喝してきやがる。

 所詮は人を欺くことに長けた、ただの害獣だ。


 俺は肩に突き刺した『竜月』を引き抜き、同じ個所に二度ブッ刺した。


「い、いだぁぁぁい!」


「黙れ喚くな。次は頭部か心臓のどちらかに突き刺す。そこが魔族の弱点だからな」


「やめてぇ、お願いよ……許してぇ」


「屠られたくなければ、これから俺の問いに答えろ。素直に話したら特別に生かしてやる」


 俺は突き刺した刀剣をぐりぐりと捻ってやる。


「い、痛い! わかったわ、話す! 話すから、グリングリンしないでぇ!」


 涙を流し懇願する、ビャンナ。

 ようやく主導権を制した。


 本当なら、こういう嬲り拷問めいたことは趣味じゃない。

 だが魔族共から情報、特に魔王と魔王城の在処を手っ取り早く聞き出すにはこの方法が一番だ。


 ――前勇者パーティでも、魔族への尋問役はもっぱら俺だったからな。


 最初に提案し、俺を任命したのは魔法士シジンだ。

 あのゲイ、頭は抜群に切れるが嫌な役はよく俺に押し付けてきた。


 まぁギムルは不器用ですぐ問答無用でキルしちまうし、聖職者のセイリアじゃ不向きな役目だ。

 したがって適任者は俺しかいなかったこともある。


 けど、勇者ナギサはこのやり方には批判的で、よく俺にブチギレていた。



◇◆◇



 およそ18年前――。


ナギサ「ちょっとやめなよ、グレン! その子、可哀想でしょ!」


グレン「はぁ? 魔族相手だぞ? しかも幹部クラスだ。幼い少年の姿だからって容赦してどうする? 魔王の居場所と正体を突き止める絶好のチャンスじゃないか?」


ナギサ「それでも駄目よ! そんな残酷なこと認めないわ! ほら、キミ大丈夫?」


魔族の少年「……あ、ありがとう優しいお姉ちゃん(今だ、勇者死ね!)」


 近づくナギサに向けて、魔族の少年は隠し持っていた短剣で突き刺そうとする。

 刃は彼女が差し伸べた手の指先に少し触れる程度で掠め、あっさりと躱されてしまう。

 指先からほんの僅かに血が滲む程度で済んだ。

 

 ――までは良かった。


ナギサ「痛ぁ……おんどりゃ! 何さらしとんじゃ――《神速疾風アクセラレーション》!!!」


 極小の傷にもかかわらず、ナギサはブチギレた。

恩寵能力ギフトスキル》を発動し自身を加速させる。


 結局、魔族の少年を滅多斬りで瞬殺し消滅させてしまった。


グレン「……お前が一番容赦ねーじゃん」


 おかげで貴重な情報が聞けなくなったじゃないか。



◇◆◇



 んなことが何度となくあったっけ。

 

 だから余計にアムティア達を介入させないよう、ビャンナとタイマン戦に持ち込んだのだ。

 清き正しい彼女達には見せたくない。

 こういう役割は俺だけで十分だ。


「……残り1分半、時間がない。これから問うことを2秒以内で答えろ。答えなければ殺す」


「わ、わかったわ……」


「まず魔王はどこにいる? 魔王城の在処は?」


「知らない」


「嘘つくなよ。幹部だろ、お前?」


 俺はブッ刺している刀剣の柄に力を込める。


「い、痛い! 本当よ! 本当に知らないの! 信じてよぉ!」


「俺は魔族を信じない……が、子爵という中間ポジなら最高トップの潜伏場所を知らされていのも納得できる。では今回の魔王はどんな奴だ? 特徴でもいい、言え」


「……し、知らない。本当なの! ワタシはただ上の指示に従っただけ! ここゾルダーナ王国を侵攻するため、少し離れた鉱山地帯で兵の準備をしていただけなのよ!」


 ここまで追い込んで、ビャンナが俺に嘘をつくとは思えない。

 魔王に関してこの魔族は何も知らない。


 そう割り切るか。



―――――――――――


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