第50話 ビャンナVSグレン



 俺は鞘からギムルから譲り受けた刀剣『竜月』を抜き身構える。

 魔竜の角と牙を素材にしているだけに刀身は漆黒色に染められ、負の魔力で漲られている魔剣だ。



 コォォォォォ



 さらに俺は独特な呼吸法にて体内で竜気を循環させ練り上げていく。


 露出された皮膚、顔から手の甲から黒い血管が浮き出てくる。

 《呪われし苦痛カース・ペインの呪い効果だ。


 以前なら既にこの時点で全身が地獄の激痛に蝕まれていたが、シジンが与えてくれた腕輪のおかげで見た目に反し通常に戦える。


 約3分間は、竜戦士として真の力を引き出すことができるのだ。


「その皮膚から浮き出されるモノ……《呪われし苦痛カース・ペイン》? しかし、どうして普通に立っていられるの? それに剣や装備といい、魔族こちら側みたいじゃない? 貴方なんなの?」


「時間が惜しい、お喋りは後だ。まずは貴様を屈服させる――来い!」


「フン――殺れ、グレート・オーガ」


 ビャンナが指示すると三体のグレート・オーガが各々の武器を掲げ突進してきた。


 が、


「何ッ!? ちょっとぉ、どこへ行くのよ!」


 ビャンナの指示に反し、グレート・オーガ達は俺を素通りする。


 後方でエアルウェンが魔法を放っていたのだ。

 敵を任意の場所に誘導する《指定誘導魔法インダクション》――。


 グレート・オーガは知能こそ然程高くないが上位クラスの魔物である。

 それを三体同時誘導となると相当な技術と魔力消費が必要となる筈だろう。

 

 安直なチートで魔力制御もろくにできなかったイクトとは異なり、エアルウェンは魔法士として適正が低いとされたエルフ族にもかかわらず努力を重ね、勇者パーティに抜擢された魔法のエキスパートだ。



「これで一対一だ。それとも、ざーこ相手にびびったか?」


「フン、吠えてなさい。貧弱な人族如きが――」


 ビャンナの姿が靄の如くフッと消える。


 それは比喩ではなく、本当に消えてしまった。

 しかも姿だけでない。魔力、気配、臭い、あらゆる存在を示す可能性が絶たれ消失してしまう。


 これがビャンナの能力か……。


 幹部クラスの魔族は魔法の探求心が強く、魔力の向上や魔法の研究に余念がない。

 その結果、魔法を改良し極めた唯一無二の特化魔法|特異改良魔法《ユニークマジック》を会得している者が多い。


『――《隠密行動魔法ステルス》。魔王軍での通り名は『隠密のビャンナ』よ。ワタシは自分の存在を因子ごと消すことができるわ』


 ビャンナの声が耳ではなく頭に響き渡る。

 位置が特定されないよう、思念を送っているのか。


「……なるほど。エアル姉さんの魔力探知に引っ掛からなかったわけだ」


 暗殺向きの《特異改良魔法ユニークマジック》、そう判断する。


『まずは貴方を殺すわ! その後は仲間の雌共よ! 貴方と違って雌共の方が肉も柔らかそうだから、そっちを食らうとするわね! 貴方はグレート・オーガの餌よ!』


「如何にも魔族らしく、人を侮り舐め腐った台詞だ。しかあし、おかげで俺も容赦なく刃が振れる……正直、魔族とはいえ美少女を斬るのは本意ではないんでね」


『なんですって!? 人風情が!』


 ビャンナはヒステリックに声を荒げる。

 大抵の魔族は感情の起伏がなく淡々としている奴が多いが、こいつは珍しいタイプだ。

 

 逆に尋問のしがいがある――。


「ビャンナとか言ったな? お前は一つ大きなミスを犯している。それは俺が『竜戦士』だと気づかなかったことだ」


『リ、竜戦士!? まさか――』


「そっ、【竜式戦闘術】の『竜眼』は大地に漂う竜脈を捉え、攻撃軌道の流れを予測する。お前の姿を探知できなくても俺への攻撃を仕掛けた時、その殺気と軌道の流れでお前の位置が特定できるんだ」


 二秒後、後方からの頸部を目掛けての直線攻撃――。

 俺は瞳孔を紅く染め、ビャンナの攻撃軌道を予測し完璧に躱し回避する。


「バ、バカな!?」


 ビャンナの姿が浮き出て見えてくる。

 その手には剣が握られ、横薙ぎに振るわれていた。


「ビャンナ、お前は決して弱くない。俺が強すぎただけだ――竜閃斬リュウセンザン!」


 俺は『竜月』を一閃し、ビャンナの胴体を脊髄ごと両断した。



―――――――――――


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