第49話 隠密のビャンナ



 その猛烈な一撃は敵の肉体だけにとどまらず地面にまで及ぶ。

 地鳴りが響き大きな爪痕を残した。


 グレート・オーガに勝利した、パルシャは「ふにゃ」と力尽きその場でへたり込んだ。

 粗削りだが師のギムルを彷彿させる技と一撃。

 見事だ。とても五級冒険者とは思えない。


 俺達はパルシャの下に駆けつけた。


「キミ、大丈夫か?」


「うにゃ? お前、新手かぁぁぁ!」


 何を思ったのか、パルシャは立ち上がり俺に向けてブォンっと戦斧を横薙ぎに振るってきた。

 間一髪ですれすれで躱しきる。


「あ、危ねぇ! よく見ろ、人族だろーが!」


 俺の指摘に、パルシャは大きな瞳を細めて見入っている。


「ん? ん~ん……あっ、暗くて魔族と見間違えたニャ」


 嘘つけ!

 獣人族は他種族より五感に優れ、特に嗅覚と夜目は抜群なのは知ってるぞ!


「グレン・ドレークだ……キミの師であるギムルの旧友でもある。名前くらい聞いたことないか?」


「う~ん、師匠から聞いたようでないような……パルは考えるのが苦手だからわかんないニャ! 夕べ食べたゴハンもよく忘れるニャ!」


 あっ、こいつ言動からしてアホの子だ。

 ハンス達が見限るのも納得したわ。


 しかし斧使いの戦士として実力と才能は本物だ。

 きちんと舵取りさえすれば優秀な前衛として期待できる器を秘めている。


「とりあえずパルシャの治療と回復だな。リフィナ頼めるか?」


「……うん、わかった」


 よく見たら、所々に切り傷と擦り傷が見られる。

 あれだけのゴブリンとオーガ、さらにグレート・オーガを一人で斃したのだから無理もない。

 おそらく頑丈さも師匠譲りか。


 リフィナはパルシャに近づき回復魔法を施して傷を癒し始める。

 

 俺は辺りを見渡し、松明の火を一旦消した。


「エアル姉さん、魔法で周囲を明るくしてもらっていい?」


「……わかったわ、グレンくん」


 エアルウェンは魔杖を掲げ《照明魔法ライトニング》で一時的に洞窟内を明るくする。

 すると広々とした空洞内の奥側で、数体の魔物達が潜んでいた。


 先程、パルシャと戦ったグレート・オーガが三体。

 そして真ん中に、ニヤついた顔でこちらを見据えている女が一人。


 見た目はアムティアと変わらない十代風の少女で、侍女のようなメイド服を着用している。

 空色の長い髪で整った綺麗な顔立ちをしているが、両耳の先端が尖っており、口端を吊り上げた形の良い唇の奥からキラリと牙が見られていた。

 そして頭部には羊を彷彿させる二本の巻き角が生えている。


 ――魔族だ。


「……やはり上がいたな。魔王軍か?」


「随分、勘がいい人族ね。そう、ワタシはビャンナ。魔王軍の幹部にして子爵よ」


 ビャンナという魔族が自ら名乗りを上げた。


 魔王軍に属する魔族は己の力を誇示するため、人族の貴族階級を自分らのヒエラルキーとして取り入れている。

 基本、奴らは男女平等であるが唯一爵位だけは尊重し、野良魔族でない限り序列は絶対だ。

 したがって子爵といえば魔族幹部でも中間くらいの実力者を意味する。


「気をつけていたつもりだけど、まるで探知できなかったわ……」


「師匠! あの魔族、幹部だけに相当な手練れですぞ!」


 エアルウェンは魔杖を構え警戒し、アムティアが刀剣を鞘から抜き緊張して叫ぶ。


 よくよく考えてみたら、このパーティで魔王軍の幹部クラスと戦闘するのは初めてだ。

 以前はイクトがイキリながら速攻でブッ飛ばしていたからな……村や町ごとな。


「ざーこ冒険者には興味ないわ……と言いたいけど、ここまで甚大な損害を出されちゃ生かして帰すわけにはいかないわね」


 ビャンナという少女魔族は戦う気満々のようだ。

 基本、連中は俺達を捕食対象としか見てないからな。

 この場にいる知的種族達を皆殺しにするつもりだろう。


 戦う覚悟はできている。

 が、同時にやらなきゃいけない事もあった。


「俺があの魔族と戦う。だからアムとエアル姉さんはグレート・オーガを頼む。リフィナはパルシャの回復に専念し終わったら、二人の支援に回ってくれ。パルシャも二人を加勢しろ、いいな」


「はい、師匠ッ! どうかお気をつけて!」


「わかったわ、あの魔族はグレンくんに任せて方がよさそうね」


「……グレン、わかった」


「パル、まだ状況が呑み込めないけど、あいつらは敵だから言うこと聞くニャ!」


 各自が了承し、臨戦態勢を整える。


 俺は一人で前に出て、ビャンナと対峙した。


「このワタシ相手に貴方一人? 頭悪いの?」


「……2分、いや1分だ。それだけあればいい」



―――――――――――


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