第48話 斧使いの少女(アホの子)



「ゴブリンって繁殖性が高いけど、相当な数ね……50体は超えるかしら? とても一カ月で増えていい数じゃないわ」


 博識の高い魔法士のエアルウェンが感想を述べている。


 基本、連中は雄しかいないので人族の女性を拉致し子を孕ませ産ませる。

 約一月ほどで成人となると言う。

 これほどの数であれば、どこかに人族の女性を複数人ほど監禁している可能性があるが……。


「違う、こいつらは兵士だ。見ろ、装備がやたらと充実している。とても野生の魔物じゃない」


 俺はしゃがみ、ゴブリンが装備している剣を拾った。

 通常、冒険者から奪った剣や装備だが刃からして真新しい。

 しかも両断された鎧や盾も、どこかの軍から支給されたっぽい。


「……グレート・オーガが率いってきた連中?」


「ああ、リフィナ。きっとそうだろう……だが、これほどの兵を集められるのは単独では不可能だ。俺の経験上――こいつらは魔王軍だ」


「「「魔王軍!?」」」


 俺の言葉に全員が驚愕し一瞬だけ声を荒げる。

 一応は戦闘行動中なので、「しーっ」と注意を呼び掛ける。

 すると女子達は申し訳なさそうに無言で頷き、揃って口元を手で押さえた。


 彼女達の反応を微笑ましく思いつつ、少し腑に落ちない感覚に見舞われる。


 おそらくグレート・オーガより上がいる……そう思った。



 先を進むと、通常のオーガの遺体も複数ほど見られた。

 ゴブリンと同様に頭部と胴体が真っ二つに斬り裂かれている。


「どうやら、パルシャという斧使いがほとんど一人で魔物を斃しているようだ……ギムルじゃないが戦士としての才覚は本物だな」


 冷静に見定めて先を急ぐと、金属同士のぶつかり合う音がより大きくなる。


 すると暗く広々とした空洞から眩い火花が散らしていた。

 松明の炎を向けると、二人の戦士が戦っている光景が見える。


 一人は巨漢で金属のような鋼の肉体を持つ鬼、グレート・オーガだ。

 両手に刃が反り返った大剣が、それぞれ握られている二刀流だ。


 もう一人は小柄だが、身の丈程の戦斧を軽々と振り回す少女。

 獅子のような鬣と猫科動物の両耳に臀部には尻尾が生えている獅子獣人族ライオット

 顔は人族の少女と同様で、あどけなく可愛らしい容貌。

 そして獣人族ならではだろうか、幼く見える割にはスタイルが良い。


 にしても、あの戦斧。

 間違いない……ギムルが使用していた武器だ。


「――グレート・オーガと戦っている彼女がパルシャか」


 俺はそう判断する。


 そのパルシャは野生猛獣の如く腰を落とし低い体勢で戦斧を構えている。

 柔軟かつ抜群の瞬発力を駆使し、グレート・オーガに飛びつき攻撃を繰り出した。



 ガキィィィィン!



 パルシャの攻撃が重ね合わせた二刀の大剣で受け止められている。

 それでも彼女は諦めず、引いては素早く同じ攻撃を何度も繰り返していた。


「……師匠、あの者に加勢した方が良いでしょうか?」


 アムティアは腰元に携える刀剣に手を添えて訊いてくる。


「いや、アム。その必要はない……なるほど、不器用だが師匠ギムルと同じ戦い方をする」


 すると、



 バキィッ!



 防御していたグレート・オーガが構えている二刀の剣身が同時にへし折れた。

 何度も同じ個所に強烈な攻撃を受けたことで耐久性を失い破損に繋がったのだろう。


 その光景を目の当たりにした、アムティアと仲間達が驚愕する。


「武器破壊!?」


「攻撃こそ最大の防御。あれこそギムルの教えだ」


 一撃で仕留められなければ、諦めず仕留めるまでやれ。

 雨の雫とて、いずれ岩を穿つだろう――。

 

 しかもパルシャの場合、獣人族ならではの筋肉のバネと俊敏性を活かした連撃により相手の攻撃する隙を与えない。

 事実上、敵の注意を引きつけ攻撃を封じる。


 まさしく前衛の鏡だ。

 俺は危なくて絶対にやらない戦法だけどね。



「ウガァ! トドメ刺すニャーッ!」


 パルシャが吼える。

 猫科だけに語尾は「ニャーッ」がつくのかと思った。


 高々と跳躍したパルシャ。

 掲げた戦斧に全体重を乗せては高速に前転する。


「――覇天砕ハテンサイッ!」


「ギャァァァ」


 グレート・オーガは断末の悲鳴と共に頭頂部から股下にかけて一刀両断された。



―――――――――――


お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る