第44話 G戦士コンビ
そうこう歩いていると目的地である一軒の武器屋に辿り着いた。
嘗て勇者パーティの戦士ギムルが経営している店であり、彼が作った武器はここで売られている。
手先が器用で高い鍛冶や工芸技能に優れているとされる、ドワーフ族が制作した逸品の数々。
ゾルダーナ王国が強国と謳われているのも頷けた。
「――ギムル師匠なら山の麓にある鍛冶場におりますよ」
店番をしていたジェイミーという青年が教えてくれる。
しれっと平和そうな顔をしており体も細く、屈強の戦士にはとても見えない。
なんでも鍛冶師として弟子入りしているとか。
「わかった、ありがとう……ギムルの奴、戦士としての弟子はいないのか?」
「え? ええ……唯一の弟子として、いるにはいるんですけどね。ごにょごにょ」
何か言いづらそうなジェイミー。
俺はまぁいいかと頷き武器屋を後にした。
数時間後。
王都を一望できる山頂に、ぽっつんと大きな建物が設置されている。
ここギムルが暮らす鍛冶場であり武器制作工場だ。
16年前、魔王討伐後。
ギムルは戦士を引退し、嫁いだセイリアの勧めでゾルダーナ王国に住み鍛冶師として営んでいる。
俺も『導き手』の任務を終えてから、しばらく暇だったので時折顔を覗かせる程度だったがそれだけだ。
あれから10年くらいはまともに会っていない。
昔は勇者パーティの前衛として「G戦士コンビ」を結成し、共に背中を預け合うほど仲が良かったが、なまじ良すぎてしまうと逆に疎遠になってしまうものだ。
まぁその分、ふと再会しても普通に話せる間柄なのだが……。
「――久しいな、グレン。セイリアとシジンから事情は聞いている。入れ」
扉を叩く前に開けられ、ギムルか顔を覗かせる。
白髪交じりの長い髭を蓄えた背が低い寸胴の体形、如何にもドワーフ族。
けど気のせいか、以前より一回り小さくなった感じがする。
にしても相変わらず、ぶっきら棒な口調だ。
元々こういうキャラだと思えばなんてことない。
その反面、元勇者パーティの中では俺と並ぶ常識人だった。
「ああ久しぶりだな、ギムル。押しかけてすまない、失礼するよ。さぁみんなも入ろう」
俺は仲間達を連れて室内へと入る。
ギムルに「適当に座ってくれ」と言われ、各自テーブル席に座り向き合った。
「相当、大変な目にあったようだな。まさか勇者が暴徒化するとは……本末転倒だ。だから女神など信用に値しない」
彼は女神を信じていない。
ドワーフ族は信仰心に熱いと聞くが、ギムルは昔からこうだった。
「なってしまったことは仕方ないと割り切っている。そうじゃないと生きていけない……それで、パーティを探しているんだが。共に前衛として戦える仲間だ」
「……オレは無理だ。16年前に現役を引退している。あの時点から肉体はピークだったからな」
エルフ族ほどでないが、ドワーフ族もかなりの長寿種族だ。
平均寿命は300歳前後だと聞いたことがある。
あの頃、ギムルから「戦士として既に折り返し地点だ」とよく口にしていた。
確かに当時より覇気がないように見える。
所謂、隠居モードというところか。
それに……。
「その右手、どうした? さっきから震えっぱなしだぞ」
俺はマグカップを握る手元を見て指摘する。
髭面なのでわかりにくいが、ギムルは双眸を細めフッと笑みを零した。
「――セイリアと同様だ。魔王の攻撃でやられた後遺症が残っている……だから彼女は俺をこの国に招いてくれた」
「そうか……あんたも」
「うむ、皆あの戦いで何かを失った……シジンとてそのぅ、股間の方だったか? あれから機能不全と嘆いていたぞ。まぁ奴は『私は受けもイケるので、まだなんとか……』と開き直ってもいたがな……」
あいつって
責めも受けも両刀なのかもしれない。
てか女子達の前で話して良い内容じゃないと思う。
「そしてグレン、お前さんは戦えない身体として魔王に呪われた……一番、可哀想なのはナギサだがな」
俺なんかを庇ったばかりに命を落とした。
寧ろ呪われたことよりも、最も尊い犠牲だ――。
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