第43話 永遠の推しのお方



 ナギサとイクト。


 転生前、社畜だった俺は新入社員達の育成を押し付けられていたからわかる。


 明らかに「人間性」の差だと思う。

 

 ナギサは見た目こそ派手目なJKギャルで口と態度も悪かったが、まだ勇者の使命を理解し前向きに捉え、柔軟な姿勢で環境に馴染んでいた。

 そして彼女なりにパーティに気を配る優しさがある。


 イクトはパッと見こそ、ごく普通のあどけない青年で人懐っこい男だ。

 けど異世界の認識からして間違っており、自己陶酔しては自己中心的に振舞っていた。


 奴はどっかのアニメかラノベ主人公を真似たのか、あるいはゲーム世界なのか俺にはわからない。

 結果、越えてはいけない一線を越え、犯罪者となりあのような末路を迎えた。

 あと仲間に対して同じような世界観で捉え、特に女子の前でカッコ良く派手にイキろうと無茶しすぎたのがそもそもの原因だ。


 もうあれは誰も止められない。

 完全に病んだサイコパスだった。


 だからイクトは勇者にはなれかなった。

 それが現実だったと割り切ることにしている。



「――それじゃ、セイリア。俺達は行くよ。これからギムルに会いに行こうと思う。今も、この国で鍛冶師として営んでいるんだろ?」


「はい、今も我が軍隊の武器整備などお願いしていますわ……ですが」


「ですが?」


 俺と問いに、セイリアは軽く首を横に振るう。


「……いいえ、お会いになればわかるでしょう。グレン様、どうかお気をつけください。なんでしたら、しばらくこの国で滞在されてもよろしいですわ。なんでしたら城に泊まりません? わたくしの寝室が空いておりますわぁ」


「姉上ッ!」


 キッと、アムティアが鋭い眼光で睨む。


「じょ、冗談ですわ……永遠の推しのお方とはいえ、わたくしも人妻で三児の母ですので。カルランとの操は守るつもりですわ。それでもグレン様が、わたくしをお求めになるのであれば――」


「ごめん、セイリア……俺ぇ、ここの国王から極刑にされたくないから、その気持ちだけありがたく受け止めておくよ、うん」


 やべぇよ。

 妻がこんなんだから、カルラン王は俺のこと嫌っているんだな……。

 王妃をNTRするだなんて疑われるだけでもシャレにならん。


 そういや、さっきから遠くの方で誰かに覗かれている気配を感じるぞ。

 しかも凄ぇ殺意が込められている。


 とっとと出て行こっと……。


「――アムティア、お母様から色々と聞いておりますわ。頑張るのですよ」


「母上から? 姉上、いったい私の何を聞いていると?」


「グレン様のことです……わたくしは超えられない強敵がいたので惨敗しましたが、貴女なら攻略が可能かもしれません」


 俺のことだと?

 姉妹でなんの話をしているんだ……攻略って何よ?


 すると、アムティアは顔中を真っ赤に染めてそっぽを向き始める。


「い、今は任務に集中したいと思っています! そういうのは別というか……なんというか」


「……相変わらずの奥手ですわ。わたくしが貴女くらいの時は、ナギサさんとアプローチという名の激戦を繰り広げておりましたわ。結局、こうして敗者となってしまいましたが……ね、グレン様?」


「すまん、セイリア……俺にはなんのことかわからない。それとアムは俺の弟子でもあるから、そのぅ……ほどほどにね」


 セイリアも母クラリス王妃に似て一方的なところがあるからな。

 頼むからアムティアに妙なこと吹き込まないでほしい。


 傍で聞いているエアルウェンは「アムちゃん、かわいい~」と大人の余裕を見せてニコニコと微笑んでいる。

 一方のリフィナはなんのことがわからず、「……ん?」と首を傾げてばかりだった。



 セイリアと別れ、王城を後にする。


 あの後、ゾルダーナ王国の使者がやって来て、アムティア宛てに旅の路銀が支給された。

 どうやらセイリアの配慮のようだ。


 通常の勇者パーティであれば魔王討伐という名目と特権で、その国の王から直々に頂けるのだが、俺達「竜撃パーティ」は該当されない。

 これは、あくまで姉妹間での恩恵だ。


「……何から何まで。セイリアには感謝しかないな」


「はい、師匠。しかし姉上は未だに師匠のことを……ご結婚されているというのに、ブツブツ」


 姉に感謝しつつ、どこか腑に落ちないアムティア。

 フォルセア王国の王女、五人のうちアムティア以外は他国へと嫁いでいる。

 皆、母クラリス王妃似の美女ばかりだが癖のある性格まで受け継いでいた。


 俺からすれば唯一まともな性格は、末娘のアムティアだけだと思っている。



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