第42話 推しまくる王妃



「グレン様、お久しぶりですわ。どうか楽にしてください」


 ソルダーナ王城の謁見の間にて。

 俺達は王妃の客人として、セイリアと対面していた。


 確か彼女は34歳で三児の母親だったな。

 けど、あの頃と変わらない清楚で綺麗な美貌。

 より大人びた聖女という印象だ。


 けど、こうもあっさり会えるとは思わなかった。


 入国して俺達は王都内を歩いていると、不意に豪華な馬車が迎えに来る。

 なんでもセイリア直々に差し向けた送迎馬車だそうだ。


 騎士達から「さっ、竜戦士グレン様。セイリア様がお待ちかねです」と言われ、現役の王女であり実妹のアムティアより厚遇を受けてしまう。

 そんな流れである意味、フォルセア王国でロイド国王と謁見する以上にスムーズに会うことができた。


「お久しぶりです、セイリア王妃」


「もう、グレン様ったら畏まらないでください。あの頃のようにセイリアとお呼びください。跪く必要もありませんわ」


 そうは言われてもな……。

 周りには護衛の騎士や重鎮達がもろガン見している。

 俺はイクトのアホと違い、場所と空気は読む男だ。


「姉上、お久しぶりです。夫であるカルラン陛下は?」


「ええ、アムティア。あの人なら隅っこに追いやってますわ……グレン様とお会いになる度に嫉妬ばかりしてウザいですの」


 どうやら俺は王族の男達に嫌われてしまう性分らしい。

 そしてカルラン王もロイド国王と同様の愛妻家であり、妻のセイリアには頭が上がらないとか。


「であれば、どこか別の場所でお話しませんか? このような場だと、そのぅ……師匠と皆が周囲を気にされてしまいます」


「そうですね、アムティアの言う通りですわ。ではグレン様とお仲間の皆様、庭のガゼボにご案内いたしますわ」


 セイリアはニッコリと笑みを零し立ち上がる。

 侍女の手を引かれ、右足を引きずりながら歩き始めた。


(あれから16年も経っているのに、まだ傷が癒えないのか……)


 俺はそう思い、胸が締め付けられてしまう。

 

 セイリアの右足は魔王との最終決戦で負った傷だ。

 高位の回復術士である彼女でさえ完全に修復できないほどの損傷だった。


 ある意味、俺と同じ魔王の呪いか……。

実際、奴と戦った者としてそう思えてしまった。



 王城の広大な中庭に設置された東屋ガゼボ

 天候も良いからか、先程とは違って解放感がある。


 周りには俺達とセイリア、付き添いの侍女が数名のみ。

 また遠く離れた視界内には護衛用の騎士達が並んでいる。


 俺達はおしゃれな造りのガゼボに入り、設置された椅子に座る。

 侍女達が手際よく、紅茶とお菓子を振る舞ってくれた。


「ささ、グレン様に皆様。どうかお召し上がりください」


「ありがとうセイリア……そのぅ、右足は大丈夫なのか?」


「ええ、些か不自由ではありますが一人で歩けるほどまでには……侍女達はカルランの指示で付き添ってくれているだけですわ」


「そっか……16年前の戦いで俺達は勝利こそしたものの、皆何かしらの傷を背負ってしまったからな。かく言う俺も引退すればいいものの、こうして再び魔王討伐に就いてしまった」


「お噂は聞いておりますわ。まさか、あのナギサさんよりも破天荒な勇者がおりましたとは……」


「イクトは別格さ。ナギサは中盤頃から様になったからな」


 ギャルだった厚化粧も取れ、金髪だった髪も茶色が混じった黒髪に戻ったんだ。


「そうでしたわ……二年ぶりに謁見したお父様も誰かがわからなかったくらい――」



◇◆◇



 ロイド国王「……そ、其方は誰だ?」


 勇者ナギサ「勇者ですよ、王様(失礼ね、このリア充サンタ!)」



◇◆◇



「ああ、ナギサが後々愚痴っていたのを覚えているよ。丁度パーティも上手く機能し、魔王軍の幹部達を斃しまくっていた頃だったな。それ以降もラグロン大陸を始めとする他の大陸の勇者達からも一目置かれるようになった」


「ナギサさんが更生されたのも、全てグレン様が親身になって正しく導いた賜物ですわ」


 聖職者でもあるセイリアは、「フフフ」と上品な微笑を浮かべ懐かしそうに紅茶を啜る。

 当時そんな彼女も俺の奮闘ぶりを傍で見ては陰で支えてくれていた。


 今でも俺は感謝している。

かけがえのない大切な仲間の一人だ。



―――――――――――


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