第41話 敬愛される竜戦士の俺




「――イクトが死んだって! 嘘だろ!?」


 俺達、竜撃パーティが出発してから二日後。


 隣国ソルダーナに向かう道中、エアルウェンから報告が上げられた。

 フォルセア王国の使者が放った伝達魔法|言霊の鳩《ラグ・ピジョン》から得た情報だ。


 思わぬ報告に驚愕する俺に、エアルウェンは頷いた。


「ええ、グレンくん。なんで昨日の昼間、移送中に魔族に襲われ兵士ごと惨殺されたらしいわ……イクトを含む、何名かの遺体が燃やされていたそうよ」


「信じられんがあり得なくもないか……イクトは目立っていたからな。今回の不始末の件も兼ねて、誰かが魔族と内通して情報を売ったのかもしれない」


「師匠、それは一部の人族が魔族と結託しているということですか!?」


 アムティアは信じられないと憤る。


「魔族がよくやる手口だ。甘言と利益で、ならず者達や貧困の民を懐柔し勇者の情報を引き出すことは多々ある。奴らは魔族と称した悪魔……人族の弱みにつけ込み利用することを得意とする」


 強大な力を持つのは勿論だが人と似た姿を持ち知恵を持つ分、魔物よりも質が悪い。

 おまけに捕食対象としている人族の社会性と文化を模倣し、貴族制度を重んじて魔族独自のヒエラルキーを確立している。

 

 したがって勇者を討伐して出世しようと目論む魔族も多い筈だ。

 特に新たな魔王が出現した今、その競争はより激しいものだろう。


 元勇者であるイクトはそれに巻き込まれた。

 そういうことだ。


「……イクトは自業自得。けど兵士は可哀想」


 リフィナはぽつりと呟く。

 実際その通りだが、この子の場合は特別イクトを毛嫌いしているだけに毒舌ぶりが半端ない。

 

「それと幾つか不審な点もあると言われているわ……」


「エアル姉さん、不審な点って?」


「現場の遺体が一つ足りてないようで、荷馬車の馬も一頭どこかへ行ったみたいなのよ。それと金品や食料なども紛失していたって話よ」


「物資系は山賊とかの物取りの犯行として、馬を一頭だけ残す理由がわからん……あと遺体の件か。ひょっとして生き残っていた兵士がいて逃げたとか?」


「であれば何故に兵士は姿を消したままなのでしょうか? 任務放棄と見なされるのを恐れた逃走とでも?」


 アムティアの見解に、俺とエアルウェンが頷いて見せる。


「かもしれない……実際、現場を見ないと判断のしようもないがな。エアル姉さん、殺されたのは間違いなくイクトなんだよな?」


「ええ……燃やされ損傷が激しくて断定は難しいみたいだけど、辛うじて残っていた衣類から彼が着用していた物で間違いないって」


 そうか……ならイクト本人だと思っていいかもしれない。

 あんな意味不明な珍獣でも、1年間は一緒に旅を続けていただけに少しだけ切ない気持ちが芽生える。


 ぶっちゃけ、ちゃんと犯した罪を償って欲しかったけどな。

 まぁイクトらしい結末と言えばそれまでだ。


「わかったよ。俺達は気持ちを切り替えて前に進もう。イクトが死んだからって、1000億Gの借金が減るわけでもないからな」


 俺の言葉に仲間達全員が「う、うん……」と曖昧な返事をする。

 イクトが残した負の遺産だけに、ガチで最後の最後でやらかしてくれたわ。




 さらに15日後、目的地であるソルダーナ王国に到着する。


 徒歩とはいえ本来ならもう少し早く辿り着く場所だが、途中の村々で路銀を稼ぐためにクエストを請け負っていたこともあり遅れてしまった。


 あれからアムティアとリフィナも冒険者登録したので、冒険者ギルドや村人から直接依頼を受けることができる。


 エルフ族の魔法士エアルウェンも、俺と同様に冒険者の登録カードを所持していたが、職種が違うとのことで再登録扱いだった。

 前職はなんなのか訊いてみたが、「女には秘密がつきものなのよ、グレンくん」と艶っぽく濁され教えてくれない。

 

 そういう展開にあまり乗ってしまうと、アムティアとリフィナが頬を膨らませて睨んでくるので、俺は「そっか……」と話題を流したものだ。



「まずはセイリアに会いに行くか。妹のアムがいればアポなしで会えるだろう」


「お言葉ですが師匠お一人でも問題ありませんよ。母上と同様、姉上も師匠を推しとして敬愛されておりますので」


「そっか……うん、そうだったな」


 会いづられ~。

 けど、ソルダーナ王国まで来てスルーしたら後が怖ぇ~。



―――――――――――


お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る