第40話 いいこと思いついちゃった


イクトside



 クソォ……魔法が使えれば、この程度の魔族なんて怖くないのに。

 僕のチートスキル、《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》でいくら魔力を高められても、肝心の魔法が呪いのせいで使えないんだ。


 ここは上手く誤魔化すしかないぞ。


 僕は自力で口枷を外し喋れるようにする。

 顔バレしないよう、鼻フックだけそのままだ。


「ぼ、僕は勇者ではありません……ただの犯罪者イキトです。とある盗みを働き、これから離れ孤島の監獄に入れられるところでした。助けて頂きありがとうございます」


 まさか異世界に来て、まともにお礼を言った最初の相手が魔族とは……なんか複雑なんですけど。


「……そのようですね。貴方から強者の念を感じない。勇者独特の清き魔力オーラも皆無であり、人族の犯罪者特有のドス黒いオーラしか見えません。少なくても勇者でないのはわかりました」


 う、うん……なんだか知らないけど上手く騙せたぞ。

 けどやっぱり複雑な気分だ。

 てか犯罪者特有のドス黒いオーラって何?


 ハイマーは背後を見せ立ち去ろうとする。

 人族なら誰でも襲う魔族ではないようだ。


「犯罪者である貴方など食べても不味そうだ……私は美食家なのでね。特別に見逃してあげましょう」


 なんか失礼なことぶっこきながら、ハイマーは全身に風を纏わせフッと姿を消した。


「……助かったのは嬉しいけど、あそこまでボロクソに言われると素直に喜べないや。まぁいっか」


 僕は鼻フックを外し呟いた。


 自由になったので荷馬車から出ると、外は凄惨な光景だった。

 兵士達は全員が硬質な鎧ごと無惨に斬り刻まれ血の海と化している。

 二頭の馬だけは無傷のようだ。


「ひやーっ、酷いなぁ。こりゃ今の僕じゃ歯の立つ相手じゃないぞ……ん?」


 僕は兵士達の亡骸を眺めながら、ある事に気づく。


 一体だけ斬首だけされた以外は無傷の遺体があった。

 背恰好も僕と同じくらいで体格も似ている。

 おまけに年齢もそう変わらない。


「……いいこと思いついちゃった」


 僕はその遺体が纏っていた服を交換する。

 他、使えそうな武器と道具、さらに食料や金に至るまで片っ端からかき集め袋に入れた。


「おし、これで僕は魔王軍の奇襲に遭って死んだことになるだろう」


 兵士の誰かが隠し持っていた酒を僕の服を着た遺体にぶっかける。

 野営用の火打石で火を起こして燃やした。

 不自然さがないよう他の何体かも同じように燃やしてみる。


 これは以前、グレン兄ぃに無理矢理教えられた魔物をキルした際に行う処理の仕方だ。

 どうせ死んだら肉の塊だし、日本でも火葬が主流だからね。


 けど全て燃やしてしまうと、せっかく服を交換したのが台無しになってしまう。

 服の切れ端だけ残し調べたら判別できるように細工した。


「……ふう。まっ、これでいいわ。ほんじゃ新たな異世界ライフを始めますか」


 軽い口調で言い、僕は馬に跨る。

 どこに行くかは決めてないけど、とりあえずフォルセア王国から離れた方がいいだろう。


 そう思いながら、沸々と心の中で憎しみの念が芽生え始める。

 これまでのラノベ的なアレとは異なり、また自己陶酔とは違う。


 正真正銘の煮え滾る怒りと憎しみ――。

 

 グレン兄ぃ、アムティア、エアルウェン、リフィナ……僕を裏切り追放まで追い込んだ糞共。

 

 ――許せない。


 こうなりゃ復讐だ。

 まずは力を蓄え、機会を伺ってやる。


 そうだ、僕にはラノベ知識がある。

 復讐モノだって魔法が使えなければ別の力で補い手に入れられるじゃないか。

 最強なんちゃらの。


 まずはそれを手に入れてやるからな(漠然的な無策)!


 っと、その前にだ。

 僕はどしてもやらなきゃいけないことがある。


 それこそ王道、テンプレ展開だ。


「――まず奴隷の娘を買いに行くぞ。僕を全肯定し承認欲求を満たしてくれそうな美少女がいいだろう」


 復讐モノじゃ定番の裏切った元カノ共に見せつけてやる、対美少女愛玩パートナーだ。

 奴隷だからご主人様には従順だし裏切ることはない。

 時には戦闘の支援してもらったり、僕の盾になってもらったり。


 んで「イクト様、凄いです! 流石です! 大好きです!」とワッショイされ癒してもらうんだ~い。


 何せ僕は褒められて伸びるタイプだからねん。



―――――――――――


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