第36話 再出発するわ



「……俺は転生して赤子から10年以上の歳月を費やし鍛えまくって、ようやく強くなったと言うのに、ナギサは昨日の今日でその戦闘力。まったく理不尽極まりないとしか言えないが、それが魔王と戦うギフトを授かりし勇者なのだろう……」


「だからこそ、ナギサさんにはグレン様のような『導き手』が必要なのですわ。正しく勇者を導き、世の悪を打ち払わなければなりません」


 セイリアに諭され、俺は頷き『導き手』しての使命と向き合う。

 このギャル勇者が暴走しないよう先導するのも仕事ってわけだ。


「まぁぶっちゃけ、『導き手』だかもチェンジ・システムとかないみたいねぇ。仕方ないから、グレンで我慢するわ」


「俺はホストか! 言っておくが、俺も竜人族の長に頼まれて仕方なく引き受けているんだ! しかし受けた以上は使命を全うする! だからナギサ、お前も頑張れよ! 魔王を斃したら、スローライフでもなんでも目指せばいい……ただし良識の範囲で頼む」


 最後、つい頭を下げてしまう俺。

 何故か前世社畜癖が出てしまった。

 基本、手に負えない部下や上司には頭を下げて頼むしかない。

 それでも駄目なら諦めて、俺が実行するしかなかった。


 けど、ナギサは優しい眼差しで「くすっ」と笑う。

 基が可愛いからか、ついドキっとしてしまう表情だった。


「……わかったよ。グレンの期待は裏切らない。あたしなりに勇者するからね」


 間延びした喋り方じゃなく、普通の口調で言ってくる。

 これが素のナギサなのだろうか?


 よくわからず振り回されっぱなしだが、勇者としての自覚はある。

 素直にそう思った。


 なら俺も『導き手』として彼女に付き合おう。

 勇者ナギサと共に魔王を見つけ出し討伐する。


 それから互いの異世界ライフをスタートさせればいい。

 まぁ、そうなった時、俺達はどんな関係になっているのかわからないけどな。



 などと、この頃は安易に考えていんだ。


 今思えば、あの時からもっと彼女を……。

 

 ナギサという少女を知っておくべきだったと後悔している――。



◇◆◇



「――師匠ッ! やはりここにおられたのですね!」


 現在。

 ナギサの墓前に立つ俺に、アムティアが手を振って駆けつけ近づく。


「アム、どうした?」


「皆、準備が整いまさいた。いつでも出発が可能です」


「……そうか、竜撃パーティだかの始動ってわけか。んじゃ、エアル姉さんとリフィナと合流して出発だ。まず新しい仲間を確保するため、隣国のソルダーナに向かおう」


セイリアに姉上がいる国ですね。それとギムル様も……まさかあの方を我らの仲間に?」


「……どうだろうな。ドワーフは人族より寿命は長いが、15年前でピークだと言っていた。とりあえず会ってみようと思う。何せ俺達のパーティには勇者がいないし、一年も時間を無駄に過ごしてしまった。他大陸の勇者達より大幅に遅れを取っているだろう」


 全てイクトのせいでな。

 まったく、とんだスロー・スタートだぜ。


「どうか気をつけてください。グレン、アムティア様」


 傍で聞いていた、レシュカ教皇が気遣ってくれる。


「そういえばレシュカ様……五大陸の勇者が与えられた《恩寵能力ギフトスキル》について何かわかりましたか?」


「……いいえ。女神マイファに伺ってみましたが、勇者の機密情報も本人の許可なく教えられないと。その代わり――」


 レシュカ教皇は袖口から何かを取り出した。

 それは別世界でみたことのある長方形で手の平サイズの機材。

 

 嘗て、ナギサが異世界に持ち込んだアレと同一の代物だ。


「――スマホですか?」


「呼び名はわかりませんが、イクトが所持していたモノです。本来、勇者のみが授かり許される神器ですが、転生者であるグレンなら使用して良いと許可を頂きました。マイファ様からも、他の勇者とやり取りする中で聞き出せるかもしれないと告げられています」


 なるほど、女神マイファなりの配慮ってことか。

 これで俺にかけられた《呪われし苦痛カース・ペイン》の呪解が可能な勇者を探し当て、依頼や交渉をしろってことだな。


 てかイクトの野郎……スマホの存在を俺達に黙っていやがったな。


 俺はレシュカ教皇からスマホを受け取る。

 ふとナギサの墓を一瞥した。



 それじゃな、ナギサ。

 また行ってくる。



「よし行くぞ、アム! 俺達で魔王を探し必ず斃す!」


 こうして俺の冒険が再び始まった――。



―――――――――――


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