第35話 ギャル勇者の本領スキル




 が、



 シュ



 それは瞬きする間もなく決着がついた。


 比喩ではない。

 本当に気がつけば一瞬で、8匹のハンターウルフ達は斬り刻まれていた。


 竜戦士である俺の目を持っても、ほぼ見切れなかっただと……?


「うわぁ、何これぇ! 超グロぉ! ちょい聞いてないんだけどぉ!」


 ナギサが離れた場所でレイピアの刀身に付着した血液を振り払っている。

 そしてハンターウルフの無惨な亡骸を見ながら、「うぇ~っ」と吐き気を催していた。


「……ナギサ。今、何をしたんだ?」


「ちょっとぉ、グレン! モンスターって斃したらドロップとかになるんじゃないのぅ!? もろ血を噴出すわ、中身も出てグロいんだけどぉ!」


「そりゃゲームだろ? キルしたら骸になるだけだ。ハンターウルフは食用の肉として使える。それと牙と爪は証として冒険者ギルドに提出すればお金に換金してくれるぞ」


「何、その微妙にリアルな糞ゲーのルール……もう、あたし気分悪い。超臭いし耐えられな~い」


 初戦闘を終えたっていうのにボヤきまくりの勇者ナギサ。

 その割には足が震えている。

 ゲーム感覚で戦ってみたが、予想以上のリアルに今更びびってしまったようだ。


 あの妙なテンションも、俺達の前で弱みを見せないための虚勢なのか。

 そう考えると、まだ年端もいかない女子高生だと思う。

 てか俺の方が年下だけどね。


 まぁ仕方ない。


「セイリア様……いや、セイリア。ナギサの気持ちを落ち着かせてくれないか?」


 もろ王族の娘だが、共に戦う仲なので平等な立場としてタメ口で指示する。

 セイリアは聖女らしく柔らかい微笑を浮かべて頷いた。


「わかりましたわ、グレン様。さぁナギサさん、わたくしの回復魔法で心を癒しましょう」


「あんがとぉ、セイリッチ……うげぇ吐きそぅ」


 ナギサは回復術士のセイリアに背中を擦られながら、気持ちを安らぐ回復魔法を施してもらい落ち着きを見せている。

 その間、俺とギムルでハンターウルフの亡骸を捌き、シジンが魔法で保存加工した。

 

 作業しながら、寡黙なギムルが口を開く。


「……今の小娘、いや勇者の戦い。残像程度しか見えなかった。グレン、お前はどうだ?」


「俺も同じだ。きっとあれがナギサの《恩寵能力ギフトスキル》なのだろう……速すぎて本人でなければ説明のしようがない」


 とりあえず彼女の回復を待ち訊いてみるか。



 その日の夜、野営している中。


「――《神速疾風アクセラレーション》。それがマイファッチからもらったチートだよん」


 ナギサはこんがりと焼き上がったハンターウルフの肉を美味しそうに頬張りながら説明している。

 あれだけグロとかボヤいていた癖に現金な女だ。


 とはいえ。


「それってどんな能力なんだ?」


 俺の問いに、ナギサは包み隠さず教えてくれる。



――《神速疾風アクセラレーション》。


 要は「速度」を操るスキルらしい。

 射程圏内20メートル範囲で、自分を含む指定する仲間や物質(弓矢などの武器)に強力な速度系のバフを与えることができる能力だ。

 

 ちなみに術者の速度を操作した際、音速級まで早めることが可能で、その際は動きや移動だけでなく五感などの感覚も同様に高められる。

 したがってナギサにとって射程圏内の空間が超スローに見える状態になるとか。


 反面、仲間にはせいぜい三倍ほどの速さを与える程度が限界らしい。

 感覚を操作してしまうと肉体コントロールが困難となってしまうからだ。


 また敵の場合、逆に感覚のみを暴走させ動きを封じることができる。

 だがその際は、敵に触接触れなければならないと話していた。


 さらには射程圏内で「速度」に分類される現象であれば「軌道を変える」「早める」などの操作が可能だとか。


 ちなみに対象により、操作時間が限られるようだ。

 それが以下の概要である。


・自身への加速操作……10秒間(その代わり音速級)

・仲間への加速操作……30秒間(速度のみの向上)

・物体への加速操作……20秒間(モノや対象によりその限りではない)

・敵に対する加速操作……60秒間(本体に触れる必要がある)


 尚、スキルの使用回数は一度に連続3回までとなり、パワーチャージで約60秒の待機が必要とのこと。


 また発動初動時の射程圏内20メートルから離れてしまうと能力は自動解除されてしまうという縛りもある。



「――速度とは時の流れよ。あたしのスキルはそれすらも操作できるってわけ」


 と、ドヤ顔で説明する勇者ナギサ。

 ふわふわな口振りだが、相当ヤバイ《恩寵能力ギフトスキル》だと理解した。



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