第34話 ギャル勇者の旅立ち



「――ねぇ、グレン。さっきからスマホの電波とどかないんだけどぉ。Wi-Fiとか使えないわけぇ?」


 ナギサが一人ソファに座り、気怠そうにスマホをイジって訊いている。


「この世界に電波はないぞ。てか、そのスマホはどうやって持ち込んだんだ?」


「マイファッチに頼んで服や鞄と一緒に復元してもらったんだぞぉ」


「マイファッチ?」


「女神のおねーさん」


「バカ野郎、創造の女神マイファ様じゃねぇか! おま、神様にチッって……やばい、こいつやばぁっ!」


「いいじゃん、あたし気に入った相手にはそう呼ぶの。あと、このスマホ電池切れとかないし、時折みんなから連絡もくるからよろ~」


「なんだって!? まさか、それがナギサの女神に与えられたという《恩寵能力ギフトスキル》なのか!? 元いた世界のWebサイト等の閲覧できるとか!?」


 けど戦闘用じゃなくね?

 てか、前世でもそんなラノベ借りて読んだことあるぞ。


「ん? いや違うけど……ただの通信用の魔道具だってぇ」


「魔道具? てことは魔力で動くってのか? 連絡するみんなって誰よ?」


「他の勇者だよ。情報交換用に使いなさいって……今回の魔王は特別ヤバ系だからって話ぃ」


「特別ね……俺が古文書で調べた限り、魔王と魔王城は神出鬼没な存在だと聞く。つまり勇者同士は協力し合って捜索しなさいという女神様からのお達しか?」


「そっだね~。あと写メや動画も取れるよ~ん」


 どうでもいいわ。誰に送るんだよ。

 如何にも世界観壊しそうな魔道具には違いない。


「ということは電波とかWi-Fiで動く代物じゃないってことだろ? おそらくは魔力か……勇者同士の情報交換用ってことは、魔王に関して何かわからないと使えないようになっているんだろう」


「へ~え、なるほどね。グレンって頭いいねぇ」


「そぉ? そう言われると、なんだか少し照れちゃうんだけど」


「半分ジョークだよ。んじゃ、みんなで魔王シメるのに旅立つ準備でもしょっかぁ?」


「お前、俺の心を弄びやがって何気に罪な女だな……まぁ、やる気になってくれたのはいい事だ」


 それから旅立ちの準備を整え、明日の出発に備えることになった。


 ちなみにナギサが女神マイファから与えられた《恩寵能力ギフトスキル》は後の戦闘で明らかになる。

 俺から見ても、あのイクト以上の能力を秘めているのは確かだろう。



◇◆◇



 翌日、準備を整えフォルセア王都を出た。

 

 勇者ナギサは自分でコーディネートした軽装の鎧にフリフリの派手めのミニスカート姿となっている。

 無論、俺は『導き手』として止めたが、本人が「ダサいのばっかだと、モチベが上がらない」と駄々をこねるのでやむを得ず認めた。

 そして腰には細身の刀身を持つ刺突用の片手剣、レイピアが鞘に収められている。

 

 まず俺達勇者パーティは魔王軍や魔族達がラグロン大陸内で出没したという情報を頼りに連中の足取りから追う形となるだろう。



 砦の検問を抜けて森の中を歩いて行く。

 間もなくして早速、魔物と遭遇した。


「でっけぇ犬!」


「ちがいますよ、ナギサさん。あれはハンターウルフです。集団性であり牙と爪の攻撃を得意とする人喰い害獣です。あと素早さと軽快な身のこなしも特徴ですねぇ、ハイ」


 ナギサの勘違いにシジンがうんちくを交え説明している。

 確かに見た目は狼だが大きさは比ではない。

 その魔物が8匹も現れた。


 とはいえ、選りすぐりの精鋭部隊である俺達にとって雑魚モンスターだ。


「ナギサ、離れてろ。俺が2秒で終わらせる」


「ちょっと待って、グレン。あたしが戦っていい?」


 いきなりナギサは言い出した。

 だが俺は難色した表情を浮かべる。

 

「まだ実戦経験ないだろ? まずは戦の空気に慣れるべきだ」


「んーっ、でもソシャゲと一緒でしょ? それにマイファッチからもらった《恩寵能力ギフトスキル》も試してみたいし、みんなあたしがこーだから超不安なんじゃね?」


 ソシャゲ? スマホのゲームのことか。

 最もしちゃいけない思考だが……確かに、このギャルがどんなチート能力を与えられたのか気になる。


 てかこいつ、自分が浮いているって理解してたんだな。

 そこは超意外だ。


 まぁいい。ピンチだったら助けに入ればいいだけのこと。

 俺はそう思い、勇者ナギサの戦いを見守ることにした。



―――――――――――


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