第33話 灰汁の強い前勇者パーティ



 不満気にボヤいている女勇者に、国王は「ほう……」と項垂れた。


「これだけの面子を揃えて不満を漏らすとは……なんたる魔王討伐への意気込み。ふざけた身形と態度だが、勇者としての資質は本物のようだな」


 いえ、ロイス国王。

 こいつは勇者パーティと合コンパーティーを捉え違いしているだけであります。


「てかぁ同年代風の男子ぃ、グレッチしかいないじゃ~ん?」


「グレッチと言うな! 普通にグレンと呼べ! あと陛下へのタメ口はやめろ!」


 勝手に仇名をつける、ナギサの隣で俺はキツく指摘する。

 

「まぁ召喚されたばかりだ。多少は目をつぶろう……ちなみにそこにおる、グレンもパーティに加わるぞ。その者は、あの竜人族しかなれぬとされた偉大なる竜戦士であり、勇者の『導き手』だ。きっと其方の役に立つだろう」


 ロイス国王がドヤ顔で言うのも頷ける。

 同じく召喚されたと思われる他五大陸の勇者パーティ間で竜戦士は俺だけだからだ。

 それだけでも「魔王討伐レース」のイニシアティブを大幅に取ったことに等しい。


「ふ~ん、顔はまぁイケてるかなぁ。けど年下のロン毛ってね……」


「悪かったな! この黒髪は俺のアイデンティティだ! 転生前じゃ、30代後半頃から少しずつ寂しくなっていたからな……って何を言わしてんだ、コラァ!」


「グレン、自分で言ってんじゃん。おもろーっ」


 ナギサは楽しそうにケラケラと笑って見せる。

 その緊張感のないやり取りに、周りの騎士や重鎮達から「あの者達、本当に大丈夫か?」とざわつき始めていた。


 マズイ、俺としたことがすっかりこいつのペースに乗せられちまったじゃないか。


 すると、玉座に腰を下す国王と王妃が何やら気難しい表情を浮かべている。

 ナギサの破天荒ぶりに気を悪くしたようだ。


 ガチでマズイぞ……王族への無礼は処罰の対象になる。

 とある国ではギロチン台で処刑されたとも聞く。


「グレン君、すっかり勇者ちゃんに弄ばれているわ……セイリア、絶対に負けちゃ駄目よ。ママ、応援しているからねぇ!」


「はい、お母様。グレン様はこのわたくしがお守りいたしますわ!」


「いや、其方ら何言ってんの? クラリスよ、セイリアを応援するって何? 娘もグレンを守るってどういう意味? 竜戦士といえども余は認めてないからな。わかったか、グレンよ」


 杞憂か。

 王族も大した緊張感がないぞ。


 こんな緩い感じで、俺達の顔合わせは終わった。



◇◆◇



「みんな改めてよろしく頼む。俺はグレン、竜戦士だ」


 謁見の間を出てから別室にて。

 明日にでも魔王討伐の冒険に旅立つため、改めて自己紹介をしていた。


 そして肝心の勇者はああなので、何故か俺が場を仕切っている。

 これも前世で培った社畜魂だろうか?


「はい、グレン様。既に存じております……わたくしとお母様にとって尊い推しの殿方ですわ」

 

 セイリアが頬を赤らませ何故か照れている。

 この子とは既に何度か対面しており、最初に出会った時から妙に気に入られている。

 おそらく竜戦士が珍しいのだろうと思っていたが……クラリス王妃まで一緒に騒ぐもんだから、すっかりロイド国王から顰蹙を買ってしまっている。


「私も竜戦士殿のお噂は聞いています……それにしても、グレンさんは良い身体をしておりますねぇ、ハイ」


 シジンもニコニコと笑みを零している。

 ちなみに「ハイ」は彼の口癖のようだ。


「おそれいります、導師シジン殿」


「いえ、シジンで結構です。これから仲間として共に戦うのですから敬語も不要ですよ……しかし、グレンさんは良い身体をしております。特に胸部から腰回り臀部も最高ですねぇ、ハイ」


 気さくそうな兄さんさが、何故か執拗に俺の肉体を褒めて絶賛する。

 この時は魔法士としての見解で評価してくれていると思いスルーしていた。

 後に男色家ゲイだと判明するまでは……。


「……ワシはギムルだ。まさか人族であの竜戦士になった者がいたとはな。しかも随分と若僧ではないか? 『導き手』が故か?」


「ええ、まぁ……赤子の頃から鍛えられましたので、ギムル殿」


「殿は不要だ。あと敬語もいらん。ドワーフは堅苦しいことは苦手だからな」


 一見すると寡黙でぶっきら棒な爺さんだが、実はこのパーティの中で俺と並ぶ常識人だと後でわかり仲良くなる男だ。



―――――――――――


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