第31話 俺のポリシー



 ジジィことドラルの話によると、フォルセア王国で祀られる女神マイファ大聖堂を管理する、レシュカ・ジェスタという教皇の所に行ってほしいとのことだ。


「古くからジェスタ家には歴代の竜戦士達が大変世話になってのぅ……今もワシと子孫であるレシュカは文通友達で、近辺島の孤立部族共が生贄として捧げてくる赤子も引き取ってもらっておる……色々と借りがあるのじゃよ。何かあれば助けると約束をしておる」


「その恩を返すために、俺に行けと? んで何をすればいいんだ?」


「――勇者の『導き手』じゃ。転生者であるお前の天命でもある。周期的にそろそろ魔王がひょっこり現れる頃じゃろう。んで名誉職である竜戦士の肩書があれば、ジェスタ家に100年分の借りを返せるじゃろうて」


 なんでもレシュカ教皇と手紙のやり取りをする中で、彼女は転生者である俺に興味を持っていると言う。


 あとひょっこり現れる魔王って何?

 キノコみたいでなんか嫌だなぁ……。


「雑な理由だな。『導き手』のことについては聞いているが、竜戦士としての使命はどうする? 俺としては、そっちの方を優先したい」


「以前から説明しておる通り、竜戦士の使命は世界の均衡を保つことにある。したがって本来、知的種族同士の争いには関与せんし、力の均衡を破るため禁忌としておる。無論、魔王や魔族との争いに対しても同様じゃ……ただし世界を破壊しようとする災いには全力で戦い阻止する。それ以外は倫理に反しない限り自由じゃ。大抵の竜戦士はその辺で自由気ままのスローライフじゃな」


 だからそっちを優先したいんだよ。

 誰が好き好んで勇者の世話係などしてられるか。

 人材育成なんて前世の社畜でうんざりだ。


「なら目指せスローライフだぜ。俺は別にレシュカって人に恩があるわけじゃない」


「ワシには恩があるじゃろ? それを返してちょ」


「言い方よ……けど、ジジィの話だと竜戦士は魔王討伐に参加しちゃいけないんだろ?」


「竜人族はな。だがグレンお前は人族だ。同族を護るためなら大義名分として戦うことができる。お前を育て鍛えたてきたのは、そういう意図もあるのじゃぞ」


「……全てジジィの思惑通りか? 気に入らないが確かに恩を返すと約束をしたからな……わかった、行くよ」


「ほんじゃ明日から出発しろ。フォルセア王国があるラグロン大陸まで、お前なら休息無しで5日ほど泳げば辿り着くじゃろう。そこから徒歩だと寝ずに12日間くらいで着くぞ」


「いや、まず船を貸してくれよ。あと馬を買う金もくれ」


 こうして俺はフォルセア王国に行くことになった。



◇◆◇



 それから約一カ月後、14歳となった俺は目的地に着いた。

 結局、泳いだり徒歩で移動する羽目となる。


 考えてみりゃ竜人族は翼が生えているから船という代物は所持していない。

 飛べば休息込みで10日もあれば着く距離だそうだ。


 おまけに旅の路銀もギリギリまで貰えず馬が買えなかった。

 てか竜戦士になったお祝い金とかってないのか?



「――貴方が竜戦士グレン・ドレークですね。ようこそ、フォルセア王国へ。貴方のことはドラルから聞いておりました」


 女神マイファ大聖堂にて、レシュカ教皇が出迎えてくれる。

 この頃は、まだ30代で若く綺麗で清楚な聖女様だ。


「はい、よろしくお願いします。すみません、この世界の礼節とかわからなくて……特に人族の方とこうしてお話したのも初めてなものでして」


「そう仰られる割には、きちんと礼儀をわきまえているように見えます。ドラルの手紙によると、『権威ある竜人族の長老だろうと、平気でタメ口を叩く生意気なイキリ野郎じゃ』と書かれておりましたので……」


 あの糞ジジィめ、テメェ相手だからだろーが!


「はぁ、まぁ何が正解かわからないというか……ここまで来る間、人族の文化に触れてきましたが、竜人族とは大分勝手が違うようで……まず常識を学ばなければと思っています」


 大体は西洋の中世時代っぽいけど、魔法学が発展していたりと何かが異なっている。

 またエルフ族やドワーフ族など、人族以外の知的種族達が混同して生活している世界のようだ。


 それこそ社畜時代に後輩社員から借りて読んだ異世界転生系っぽい世界観だが、ああいうのと一緒に考えると超危険だと思う。

 だってステータスとかの概念なんてねーし、ゲームのようなレベルアップや経験値振り分けとかもないからね。


「では、しばらくここで文化に触れ教養を身に着けましょう。近い時期に、魔王が出現する周期を迎えます。それまで勇者を支援する『導き手』として学ぶことも多い筈です」


 レシュカ教皇の穏やかで丁寧な口調に諭され、俺は素直に頷き従うことにした。

 基本、ちゃんとした人には礼節をわきまえる、それが俺のポリシーだ。



―――――――――――


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