第30話 最初から負けてたんだよ!
ドラシュが発生させた疾風が無数に枝別れし、地上に立つ俺へと迫り襲撃してくる。
「コォォォ――竜眼」
俺は瞳が深紅色に染まっていく。
大地から溢れ出る魔力が見えるようになり、それらが気流のように辺りを彷徨っている。
これが『竜脈』だ。
その竜脈がドラシュの放った風の刃を捉え、攻撃軌道の流れを予測している。
どのような進路方向と角度で、俺のどの部分を切り裂こうとするのか示してくれた。
さらにそれら攻撃の回避方向を竜脈の流れを通して導き出していく。
それはまさしく演算処理された最適解――。
俺はただその流れに沿うだけで良い。
最小の動きで全て回避することができるからだ。
「何故だ!? 何故、当たらない!? まるで攻撃する先々を見据えているような動き……まさか!?」
「お前の負けだ、ドラシュ!」
俺は竜気を巡らせ脚力を強化し地面を蹴った。
通常、魔法でなければ不可能な位置だろうと、それ以上に空高く跳躍することが可能だ。
瞬時にドラシュの頭上を越え、刀剣を上空に掲げる。
「グ、グレン!?」
「
落下の勢いを利用し、ドラシュ頭頂部に強烈な斬撃を与えた。
無論、加減をしている。
と言っても竜人族の身体はとにかく硬いから、通常の剣撃では傷をつければ良い方だ。
しかし練られた竜波エネルギーを頭部に流してやることで、ドラシュは脳震盪を起こし白目をむく。
すっと力を失い、脱力したまま地面へと落下して大の字に倒れた。
同時に俺は難なく着地する。
呼吸を整えながら刀剣を鞘に収めた。
「勝負あり! 勝者グレン!」
審判員が勝利宣言をする。
闘技場の観客席から歓声が沸き上がり、勝者である俺を称えてくれた。
「――まだだ! まだオレは負けちゃいないぞ、グレン!」
ドラシュが起き上がってきた。
やれやれ、少し手を抜き過ぎたか……まだ加減がわからないのは俺の修行不足だな。
だが奴の足取りはフラフラだ。
俺が放った竜波の影響で、辛うじて動けているだけのようだ。
それでもドラシュは両手で大剣を掲げ、俺に向けて振り下ろしてきた。
俺は躱すどころか刀剣を抜くこともなく、深く呼吸して待ち構える。
「無駄だ――
竜気を高め込められた拳撃で大剣ごと打ち砕く。
その勢いで、強烈なボディーブローをお見舞いしてやった。
深々と鳩尾に拳がめり込んでいる。
「ぐへっ……グ、グレン、テメェ!」
「ドラシュ、何をしても無駄だ。お前は最初から俺に負けてたんだよ」
俺の捨て台詞と共に、ドラシュは嘔吐して蹲り倒れ伏せて今度こそ気を失った。
観客席から再び大歓声が巻き起こる。
こうして俺は晴れて竜戦士となった。
その後、皆に見守られる中で授賞式が行われる。
表彰台に立った俺は、長老であるドラルと向き合っていた。
「よくやったな、グレンよ。人族最初の竜戦士だ。これは超凄いことだぞ」
「ジジィ、これもあんたに殺されかけるほど鍛えられたからだよ……あと約束は守ったぜ」
「うむ。それと後で頼み事がある――その前に竜戦士となった証を刻もう」
ドラルは俺の額に掌を添え、竜波を流し込む。
額がジュウと猛烈に熱くなり、不意をつかれた俺は慌てて離れる。
「アチィ! なんだ!? 何した!?」
「竜戦士の紋章じゃ。竜人族は首筋に行うものだが、人族のお前は首が短い。だから額に刻んだのじゃよ」
なんでも普段は消えていて見えないが、竜気を額に込めると浮き出される紋章らしい。
これでどの国に行っても、俺が竜戦士だという証明になるとか。
「どうじゃ、皆の者ッ! 数十年ぶり竜戦士が9名に揃ったぞ! ハンディのある人族だって、きちんと【竜式戦闘術】を修練すれば竜戦士になれることがわかったじゃろ! もう修行をサボるなよ! 特に若い奴、お前らのことだからなーっ!!!」
ドラルのドヤ顔による一喝に、若い竜人族達は俯き「はぁ、はい……」と曖昧な返事をしている。
なるほど、最初から呼吸法を軽んじてサボっている連中を見返すために、俺を養子として引き取り鍛え上げたということか……。
てか、それって俺が
ちょっとジジィ、酷くね?
それから家に戻ると、ドラルよりある依頼ごとをされた。
「グレンよ。すまんがフォルセア王国に行ってくれるか?」
「なんだって?」
―――――――――――
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