第29話 悪いが俺が勝つ!
俺が転生してから13年の月日が流れた。
数十年前から竜戦士の枠が1つ不在で空いており、多くの竜人族が目指し躍起になっていた時期だ。
しかし大半の挑戦者が最終試験に辿りつく前に脱落し、ずっと空席のままであった。
「――いよいよ最終試験じゃな、グレン。よくぞ、ここまで辿り着いた。やるじゃん、お前」
相変わらずフランクな口調で言ってくる長老ドラル
長い付き合いもあり、こういうキャラだと思うことにしている。
「……まぁな。かれこれ、869回だ」
「ん? なんじゃそれ?」
「この13年間、あんたに課せられた修行で殺されそうになった回数だよ」
「……ネチっこいのぅ。そんなんじゃ、女子にモテんそ、いやマジで」
やかましいわ。
実際、前世でもろくな交際歴などなかったわい。
「けど、おかげで強くなった。それは感謝しているよ、ダディ」
「……うむ、そっか。しかしワシのことは『パパ』と呼んでほしかったのぅ」
要求変わってんじゃねぇか。
気を遣って呼んでやったのに、ふざけんなよジジィ。
それから俺は最終試験場に向かった。
試験内容はその時によって変わるらしい。
今回は闘技場による模擬戦闘となる。
何故ならもう一人、最終試験に残った奴がいたからだ。
そいつは成人の竜人族、ドラシュ。
長い白髪に黒色の鱗を持つ若き戦士だ。
「……グレン。人族でありながら、ここまで勝ち上がったことは褒めてやる。だが所詮は貧弱な種族だ。炎を吐くどころか空すら飛べん奴が、オレに勝てる道理などない」
「やってみなきゃわからないっていう言葉もある。あと最初にイキった奴が負けるのはセオリーなんだぜ」
煽り返す俺に、ドラシュは「チッ」と舌打ちして離れた。
互いに武器を手にする。
俺は鞘に収まった、日本刀に酷似した刀剣だ。
長年、鍛錬する中で最もしっくりする武器だ。
一方のドラシュは身の丈程の大剣を握っている。
身の丈も三メートル近い巨漢だけに、あの凶刃で叩きつけられ日には絶命を免れないだろう。
それから審判員の誘導で、俺達は中央で整列し対峙する。
「これより、最終試験を始める。勝利した者が、竜戦士となる資格が得られるだろう――では始め!」
「くらえ、グレン!」
ドラシュの奴、早速口から炎を吐いてきやがった。
だが俺は呼吸法にて竜気を全身に循環させ、そのエネルギ―を刀剣に込めた。
刀身に
瞬時に炎を弾き返した。
ドラシュは自分で吐いた攻撃を浴びている。
が、その全身を覆う強靭な鱗により大したダメージにはなっていない。
それでも意表をついたカウンターに酷く動揺していた。
「ブフゥ、なんだと!?」
「見え見えだな。今度は俺の番だ」
素早く力強い踏み込みで、横一文字に刀剣を振るう。
ドラシュは大剣を突き立て巨剣の剣身を盾代わりにして防ぐ。
ギィィィン!
刃同士が接触し、甲高い金属音と共に火花を散らした。
俺の攻撃は完全に防がれてしまう。
などと、その場で見ていた誰もがそう思ったに違いない。
しかし、
「バ、バカな!?」
ブワッと防御した筈のドラシュの巨体が吹き飛んだ。
奴は地面に転がる寸前で、背中の翼を広げて宙を飛翔した。
あのまま剣身をヘシ折るつもりだったが、飛んだことで威力が軽減されたのか……。
まぁいい。
冷静に状況を受け止める俺に対し、ドラシュは焦燥と戦慄により酷く表情を歪ませている。
「何だ、今のは……あれが貧弱な人族が繰り出した一撃なのか!?」
「竜気を体内に練ることでポテンシャル以上の肉体強化が可能となる――【竜式戦闘術】の基礎だぞ」
「……【竜式戦闘術】だと? 初代竜戦士のドラル長老が考案した技法か?」
「そうだ。俺は育ても親であるジジィに延々と呼吸法をやらされていた……今時の竜人族は、その高すぎるフィジカルに依存するあまり、それらの工程を怠っていると聞く。竜波は勿論、竜気すらまともに循環できないんじゃないか?」
「なんだと!? グレン貴様、何が言いたい!?」
「その程度の実力じゃ竜戦士になれないと言っている。悪いが、俺が勝つ」
「空も飛べない人族がふざけるな! これでもくらえぇぇぇ!!!」
ドラシュは翼を羽ばたかせ、力技による風の刃を発生させた。
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