第27話 竜戦士の過去



 少しだけ俺の過去に触れていきたい――。


 俺は転生して初めて意識を持った時、おくるみに包まれていた赤子であり既に生贄として捧げられていた。

 

(え? ここどこ? 動けないし喋れないんだけど!?)


 初っ端からガチで焦った。

 何せ、記憶だと会社で残業をしていた筈だから。

 ふと疲労で意識が朦朧したかと思えば、見知らぬ祠らしき場所で祀られていた。


 しかも一人だ。

 周囲には誰もいないのか。


 薄暗い夜中であることを理解し、視界には松明が幾つも並べられていた。



「――おい、長老ッ! 隣島の人族が、また生贄と称して赤子を置いていったぞ!」


「マジかよ、あいつらバッカじゃねーの!」


 おっ、誰かが近づいてきたぞ。

 とりあえず助けてもらおう。


 けど、あれ? やっぱ喋れないぞ。

 手足も自由に動かせない……どうなってんだ?


 すると突如、巨大な何かが覗き込んできた。


「おっ? 黒髪か……珍しいな」


 俺はその姿を見て、自分の目を疑った。

 そいつは人間ではなかったからだ。


 まるで爬虫類のような顔立ち。

 大きく裂けた長い口に、黄色の瞳に縦割れの瞳孔、硬そうな鱗状の皮膚。

 頭部には二本の枝割れした角が生えており長い首を伸ばし、じっと俺を見据えていた。


 しかし辛うじて人の形をしている。

 隆起した筋肉質の手足があり、ちゃんと二足で立っていた。

 頭頂部には髪の毛が生え、臀部に隆々とした尻尾が生えている。

そして、ゆったりとした民族衣装を身に纏っていた。


 にしてもデカイ……いや俺の体が縮んだのか?

 けど、ざっと見て二メートルは超える巨漢だ。


(なんなんだ、この蜥蜴人間……いや違う、竜なのか?)


 俺はそう思った。

 どことなく、アニメや漫画で見たそれに似ている。

 

 本当なら、びびって逃げ出したいが今の俺はそれができない。

 まともに悲鳴すら上げられず、「おぎゃ」と泣くことしかできなかった。


「……ふむ。こやつは転生者じゃな。間違いない」


 もう一人の竜男がそう呟く。

 隣の奴とは異なり、より華やかな衣装に身を包んでいた。

 だが年老いているようで、目元には皺が目立ちさらに髪の毛がない。


「転生者だって? あの異界から生まれ変わるって言う……確か勇者の『導き手』として適性を持つアレか?」


「そうよ、アレよアレ。アレがアレしてアレなのよ」


 アレアレうっせー。

 もろ年寄りの会話じゃねーか。


 その年老いた竜男は、若い竜男をどかし俺に向けて大きな口を開いた。

 一瞬、食べられるかと思い焦ってしまう。


「おい、お前。ワシらの会話を理解しているだろ? 転生者は赤子から前世に記憶を引き継ぎ、自我を宿しておる筈じゃ」


(転生者だと? 俺が……つーことはラノベやアニメで言う異世界転生なのか? 元の世界で俺は死んでしまった……急にふらついて意識を失ったのも過労死?)


「ふむ。まだ自分が置かれている状況は飲み込めておらんが、こいつは間違いなく自我を持っておる。呼吸でわかるぞ――おい、よく聞け。お前は生贄として我が竜人族の里に捧げられたのだ」


(生贄だと? 酷ぇ……生まれたばかりだというのに散々だ!)


「まぁな。近辺の島に住む連中の仕業じゃ。あいつら孤立部族で、外界と接触を閉ざしておる。だから野蛮で頭が悪い……現にワシら竜神族を邪神と勘違いし、こうして捧げものとして生まれたばかりの赤子を定期的に差し出してくるのじゃ。イヤーイヤーとか叫んで五月蠅くてかなわんわい」


(竜人族、それがあんたの種族か? そういや、俺が思っていることがわかるのか?)


「ああ、呼吸の流れでな。我ら竜人族はそれに長けておる……本来、お前のような赤子はワシの知人である人族に引き取ってもらうのじゃが……」


(じゃがってなんだよ!? まさか俺を食べるつもりか!?)


「ワシゃ魔族か? んなわけあるか。かれこれ千年ほど生きておるが、ぶっちゃけ転生者の赤子を見るのは初めてじゃ……面白い。どうじゃ、ワシに育てられてみんか?」


(育てられる? 俺を引き取ってくれるのか?)


「そうじゃ。その代わり、お前にはワシら竜人族が伝統とする【竜式戦闘術】を学んでもらう。今から教えるから覚えろよ」


 赤子の俺に無茶ぶりしてくる竜人族の爺に(は?)と心の中で念じた。



―――――――――――


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