第26話 先代のギャル勇者
改めた竜撃パーティのリーダーはアムティアのまま続行とし、俺は竜戦士を名乗りながら雑用係を兼務することになった。
俺も戦えるようになったとはいえ、たったの3分間だ。
きっとみんなに迷惑をかけるに違いない。
だからこそ、自分のできることは精一杯やりたいと思った。
まずは装備品と整えること。
それと、もう一人仲間が必要だろう。
が、その前に――。
◇◆◇
俺はフォルセア王国が一望できる高台にいた。
そこに精工に加工された石墓がある。
墓標にはこう刻まれていた。
――勇者ナギサ・アマカワここに眠る
「……ナギサ、また竜戦士として戦うことになったよ」
俺はそう呟き墓標に一輪の花を供えた。
「あれから16年でしょうか?」
背後から女性の声。
振り向かずとも誰かがわかる。
「レシュカ様……どうしてこちらに?」
「貴方なら旅立つ前に必ずこの地に立ち寄ると思ったまでです……お仲間であるシジン様も同じことを思われていたようですが、私の方で引き止めました」
あのゲイ魔法士、空気を読まないところがあるからな。
雰囲気ブチ壊しってやつ。
「ご配慮ありがとうございます」
「……いえ感謝するのは私の方です。グレン、貴方には迷惑ばかり掛けております」
「イクトのことなら気にしてませんよ。そもそも女神マイファが選んだ男……神に仕えるレシュカ様がどうこう判断できる話じゃないでしょ?」
「いえ、私が謝罪するべきは……貴方をこの国に招き入れたこと。21年前、勇者の『導き手』として」
そう、あれは俺が14歳の時だ。
竜戦士となったばかりの頃、俺はレシュカ教皇にこのフォルセア王国に招き入れられた。
理由は転生者であったから。
おそらく周期的にそろそろ魔王が現れると見込まれていた時期だ。
勇者の『導き手』の担い手として、似た境遇をもつ俺が適任とされたのだろう。
レシュカ教皇は、俺の育ての親である竜人族の長老ドラルと親交があった。
その伝手で俺のことを知り、竜人族が住む隠れ孤島からこの国に来るよう依頼を受ける。
当時は知的種族の文化や常識などわからず、招いてくれたレシュカ教皇からそれらを学んだ。
そして一年後、魔王出現に伴い『勇者召喚儀式』が行われ、彼女が異世界に舞い降りた。
――天河 渚こと、勇者ナギサ。
当時のナギサは16歳。
思いっきり女子高生の恰好をしており、鞄と何故か手にはスマホが握られていた。
またショートカットの髪も金色に染められ、長いつけ爪に化粧も濃い。
所謂、JKギャルだ。
前世は45歳の社畜の記憶を持つ、俺としては超苦手なタイプ。
しかし『導き手』として使命を全うしなければならない。
ジジィことドラルからも、そうキツく言われていたからな。
俺は意を決し、ナギサに勇者の『導き手』としてこれから行動を共にしながら教育していくことを伝えた。
すると、
「今時ロン毛やばぁ、年下に教えられるなんてありえねーっ」
「はぁ!? ナメんてんのか、ネェちゃん!」
とにかくお互い第一印象は最悪だった。
頭にきた俺は社畜で培った人材育成魂に火が付き、徹底的にこいつの性根を叩き直してやろうと奮闘した。
最初はウザがられていたが、イクトと違いナギサは地頭が良く次第に状況を受け入れるようになる。
そもそも厨二病ではなかったので、自己陶酔することもなく周囲を頼りながら研鑽し、自分の力を磨く姿勢があった。
ナギサは勇者として自覚するようになり、髪も艶やかな黒髪へと戻り化粧も薄くなり、本来の可愛らしく綺麗な素顔を見せるようになる。
また弱気者を助け、困っている者に手を差し伸べるなど温かい優しさもあった。
最初は問題児扱いだった周囲も、彼女を勇者として認めるようになる。
次第に俺もナギサを見直すようになり――そして、いつしか好きになった。
それでも時折、「グレンって口うるさくて、お母さんみたい」と言うのはやめて欲しかったけどね。
「レシュカ様、俺は後悔など一切していません。ナギサは今も俺の中で生きていますから……」
俺は振り向き、胸の中心に手を添えた。
そう……。
ナギサはこの世にはいない。
当時の魔王との最終決戦で、俺を庇い死んでしまったからだ――。
―――――――――――
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