第23話 国王の無茶ぶりよ……。



 以前にも少し触れたように、召喚される勇者は一人ではない。


 六つの大陸を代表する強国から祀れた女神マイファ大聖堂から「勇者召喚儀式」が行われ、6名の勇者が異世界へと召喚される。


 各々の大陸で魔王を探しながら、時には勇者同士が情報交換を行い協同で戦ったり、場合によっては競い合うこともあった。

 俺が参戦した周期も、勇者同士の仲が悪いとちょっとした「魔王討伐レース」へと発展していたこともある。


 フォルセア王国も大陸を代表する一国であり、召喚されたのが災厄の勇者イクトだったというわけだ。

 ぶっちゃけ、とんだハズレガチャを引いてしまったとしか言えない。


 そのイクトが勇者職を剥奪され追放されることで、本来なら新たな勇者を召喚するべきなのだが……。

 最高司祭であるレシュカ教皇の話では、女神マイファの力を持っても新たな勇者を選別するのにおよそ10年の歳月が要してしまうらしい。


 理由は1世紀に一度の周期で現れる魔王が、何故か今回に限り15年後と最短で現れてしまったことにある。


 んで、どうするんだよ?



「……正直、仮に魔王を探し当てたとしても勇者でなければ討伐は困難だ。歴代の魔王も、女神マイファから授かった恩恵である《恩寵能力ギフトスキル》を持っていると聞く。そうだな、経験者であるグレンよ」


「ハッ、陛下の仰る通りです。前魔王も世界の根幹を揺るがすほどの強大な力を持っておりました。あれこそ、まさに《恩寵能力ギフトスキル》……最後のドドメこそ私が刺しましたが、勇者ナギサがいなければ到底不可能だったことです」


 絶対でこそないが、魔王戦には勇者の存在が必須だ。

 ある意味、善と悪の表裏一体のような存在だと思っている。

 イクトはどう見ても邪悪だったけどな。


 嘗ての竜戦士である俺の話を聞き、同じ仲間だったシジン以外の誰もが「魔王とはそれほどまで強大なのか……」と驚愕している。


「では陛下、勇者が不在である以上、我ら勇者パーティは解散でしょうか?」


 アムティアが娘特権で率直に訊いている。

 問われたロイス国王は首を横に振るった。


「それはできぬ。何故なら魔王討伐を放棄したものとみなされるからだ……他の五大陸からな。フォルセア王国の体裁と矜持にかけても続行せねばならぬ大義である。今後は其方らだけで、魔王討伐の任務に当たってもらう――それが其方らパーティの責任だ」


 なんだって!?

 勇者不在で魔王と魔族達と戦えってのか!?

 ロイス国王だって今さっき困難だって言っただろ!?

 無茶ぶりすぎるぞ!


「陛下、お言葉ではありますが……アムティア姫はどういたしましょう? 大切なご息女にもしものことがあっては……ここはパーティの再編成が望ましいかと」


 俺は控えめな口調で意見する。

 無論、通常なら御法度だが、元勇者パーティの竜戦士という肩書で辛うじてセーフだ。

 いざとなったら俺を推してくれるクラリス王妃に泣きつこうっと。


「娘は勇者の『導き手』となった時から覚悟をしておる……そうだな、アムティア?」


「はい父上、いえ陛下……しかし師匠は、いやグレン殿は戦えぬ身です。せめて再編成はするべきかと思います」


「そうか? 先程、イクトを制止した力といい。呪われてこそいるが、竜戦士としての力は健在だと見ておるぞ。それにグレンよ、其方とて幼少期から慕われている弟子のアムティアを見捨てるような薄情な男でもあるまい……伊達にクラリスとセイリアから推しだのと、キャーのキャーとチヤホヤされておらんだろ?」


 ロイス国王……まさか俺に嫉妬しているのか?

 勘弁してくれ。俺、そんなつもりねーし。


 クソッ、確かにアムティアを見捨てることはできない。

 それにイクトの暴走を止めきれなかった責任だと言われると従うしかないだろう。


 けど今の俺はまともに戦える体じゃない。

 さっきだってイクトの注意が国王に向けられていたからだ。


 それに一撃本気を出す度に、1分間も地獄の激痛に苛まれてしまう……。

 どう見ても足を引っ張るだけにしか思えないのだが。



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