第22話 やらかしていた女神様
ロイス国王が手を叩くと、表側の扉から女性が入ってくる。
純白の高位な祭服を身に纏った熟女だ。
クラリス王妃と異なり若作りせず白髪交じりの灰色の髪を綺麗に束ね、顔には小皺が刻まれている。
彼女のことはよく知っている。
マイファ大聖堂を管理する最高司祭であり教皇のレシュカ ・ジェスタ。
仲間のリフィナにとって義理母である。
レシュカ教皇は俺達に一礼し、隣で同じように跪く。
通常、高位の司祭は重鎮として玉座の斜め下側で立っているものだ。
どうやら彼女も俺達と同様、尋問される側なのか。
「……お母さん」
俺の隣でリフィナは不安そうに呟く。
シジンの話だと責任を取らされ辞任することはない筈だが……。
「レシュカを呼んだのは他でもない。『勇者召喚儀式』に関して説明及び報告だ」
「報告ですか?」
「そうだ、アムティアよ。あのイクトを召喚したのはそこにいるレシュカ教皇だが、あくまで聖典に則り召喚しただけの立場だ。21年前、同じく召喚された前勇者のナギサは人類の存亡に大きく貢献したこともあり、召喚される勇者にも当たりとハズレがあると認識しておる」
つまるところ「勇者ガチャ」って感じだな。
前回のナギサも色々問題こそあったが、まだやるべきことはやっていた。
ちゃんと周囲を気遣い被害が出さないようにも配慮している。
だがイクトは、んな配慮など一切持ち合わせていない。
いくら説明し制止しょうと己の力を誇示せんとイキリまくっていた。
んで二言目には「何かやっちゃいました~」だ。
キメ台詞かよって思えてしまう。
「……ロイド陛下の恩遇、心より感謝いたします。ですが私が召喚した勇者によって甚大な被害が出てしまったのは事実。そこは大いに反省しなければいけません」
レシュカ教皇はかしこまったまま自身の考えを述べている。
「そこは今後の信仰に励めば良い。クラリスとセイリアにもキツく言われ……いや違う。とにかく余は其方を裁くことはせん。だから勝手に辞任などするなよ」
ちなみに家族思いのロイス国王は、妻と次女に頼まれた上でレシュカ教皇を不問としたらしい。
「わかりました、陛下」
「うむ。レシュカよ、それで今回の『勇者召喚儀式』関して其方の見解及び女神マイファのお告げを皆に説明せよ」
「はい」
レシュカ教皇はその場にすっと立ち上がった。
最高司祭の地位となれば、通常ではコンタクト不能な女神マイファの声をお告げとして聞くことができると言う。
どうやらイクトを召喚した件で、女神マイファから何かしらの説明があったようだ。
「――まず、この度イクトのような者を選別した件に関してですが、やはり異例とも言える魔王の出現から始まったと思われます」
「通常なら1世紀周期で現れる災害が今回に限り15年後……確かに異例であるが、して女神マイファはなんと申しておる?」
「はい、別次元を管理する神々の差し金ではないかと……この世界は創造の女神マイファ一神ですが、稀に別世界を失った神が乗っ取りを図るケースがあるそうです」
「な、なんと……レシュカよ、それは本当なのか?」
「はい陛下、ですがまだ憶測の範囲とも……本来なら余計な混乱を招くため、決して告げられぬことですが、イクトの件もあり特別な配慮がございました」
「してイクトについては何と?」
「やはり魔王が早期に出現したことに伴い、緊急を要して選別してしまったとのことです。その時ちょうど条件に合った魂は極少数であり、フォルセア王国に関しては
まさか創造の女神様から謝罪を受けるとは……妙な親近感が沸いてきたぞ。
要はイレギュラーの事態で急すぎて、よく見定める暇がなかったのか?
んじゃ、俺らが責任取らされるのも可笑くね?
っと言ってやりたい。
「なるほど……新たに出現した魔王に関しては何と申しておる?」
「……詳しくはわからないとのことです。ですが、この世界のどこかで魔王の存在を感じ、魔族達が動きを見せていることは確かのようです」
現にここ一年で侵略された国もあるからな。
一方でイクトのイキリで無暗に破壊された国や村も多いけど。
「して新たに勇者を召喚することはできぬのか?」
「フォルセア王国では最短でも10年は費やしてしまうと告げられています。したがって、他大陸で召喚された勇者達に一任するしかないと……」
レシュカ教皇の言葉に、ロイス国王を含むその場に居合わせた者達から落胆する溜息が漏れた。
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