第21話 誰の責任よ?
イクトが連行されてから間もなく。
「――さて、次は其方らだな」
ロイス国王がそう呟き、俺達元勇者パーティは中央に立たされる。
礼節に則りリーダーであるアムティアを真ん中にして、エアルウェンとリフィナ、そして俺がその場で跪いた。
「ちょっと待って~!」
間延びした女性の声が響く。
奥側の扉が開けられ、豪華なドレスを纏った淑女が侍女を引き連れて入ってきた。
アムティアによく似た美貌を持つ熟女で艶めかしいスタイル。
それもその筈、彼女はアムティアの実母。
――クラリス王妃だ。
実年齢は40代後半と聞くが随分と若い身形だ。
とても5人の娘を生んだ母親とは思えない。
クラリス王妃は「ごめんなさ~い!」と言いながら、ロイス国王の隣に設置された玉座に腰を下ろした。
「クラリスよ。今更なんだ? 勇者裁判はとうの前に終わったぞ」
「決まっているじゃない、推しのグレン君に会いにきたのよ。あの勇者は若いだけで一ミリも魅力を感じてないからね……ぶっちゃけどうでも良かったの。けど凄い地震だったわねぇ」
クラリス王妃は羽根つきの団扇を口元に添えながら「おほほ」と笑っている。
そう、どういうわけか俺はこの王妃様にえらく気に入られている。
かれこれ21年前、初めて謁見した時から「すっかり推しになっちゃったわ、うふ」と言われていた。
まぁ、別にいいんだけど、そう言ってくれる度に夫であるロイス国王が不機嫌になるんだ。
だから第二王女のセイリアがパーティに加わっていた時は「竜戦士とはいえ、娘に手をだしたら極刑だからな」と陰で念を押されていたっけ……マジ勘弁してほしかったわ。
そのロイス国王はやはり不機嫌になった。
ムスっとした表情で俺を凝視している。
ガチやめて……。
「まぁいい……まずはグレン、先程余を助けイクトを制圧してくれたことに感謝する。流石は竜戦士、呪われても力は健在だと確信した。少しホッとしたぞ」
「ハッ、陛下……お見苦しい場面も見せてしまい申し訳ございません」
「やむを得ない。16年前の代償だと思えばな……前勇者の件も含め、其方には可哀想なことをしてしまった。名は『ナギサ』だったな?」
その名を聞いて、俺の心臓は少しだけ跳ね上がる。
16年前、異世界に召喚され勇者となった少女。
共に戦った仲間であり、俺にとって彼女は――。
「いえ……世界の均衡を護るのが竜戦士としての本懐であります。私は転生者であり人族故、『導き手』として知的種族側に立っただけのこと」
「流石、グレン君! もうこの控えめなところがいいのよん! もう、ますます推しちゃうわぁ!」
クラリス王妃はシリアスな場面をブチ壊すほど「キャー、キャー」とはしゃいでいる。
誰かその奥さん、止めてもらっていい?
ロイス国王がわざとらしい咳払いをすると、クラリス王妃はしゅんとし大人しくなった。
「っとまぁ、感謝を述べたがそれはそれだ。其方らには元勇者イクトの件で責任を取ってもらわなければならない。理由はわかるよな?」
「「「「ハッ」」」」
俺達全員が言い訳せず首肯する。
いくらサイコのクズ野郎だったにせよ、イクトを止めきれず甚大な被害を出してしまったのは事実だ。
シジンも言っていたが、誰かが責任を取らなければ体裁を守れない。
ぶっちゃけ国際問題だからな……。
パーティ全員の潔さを見て、ロイス国王は「ふむ」と頷く。
「とはいえ、あのイクトの狂乱ぶりを目の当たりにする限り、たとえ誰だろうと制止できなかったことも理解している。全てが其方らの責任というのは些か理不尽なことだ。シジン卿の進言もあり、処罰や身分の降格などは考えておらん。そこは安心してほしい」
「父上、いえ陛下……さすれば我らにどうせよと?」
実娘のアムティアが面を上げて訊いている。
普通は国王の話中に口を挟むのは無礼だが、そこは身内だ。
「結論にはまだ早い。まずは何故、イクトのような男が勇者となったのか……そこを整理せねばならぬ。入って参れ――」
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