第20話 呪われし苦痛



「グレンさん、よく頑張ってくれました。後は私にお任せください、ハイ」


 魔法士シジンが静かな足取りでイクトに近づく。

 俺は激痛に耐えながら顔を上げる。


「そ、そいつに迂闊に近づかない方がいい……シジン、何をするつもりだ?」


「言ったでしょ? ロイス陛下に大仕事を頼まれていると。今からそれを行いますねぇ、ハイ」


 仕事だと?

 そういや待機部屋でそんなこと言っていたな。


「グレンよ、わざわざ魔法学連協会の本部長であるシジン卿を呼んだのは他でもない。今後、イクトが《恩寵能力ギフトスキル》が使えぬよう封じてもらうためだ」


 依頼者であるロイス国王が説明してきた。


「いくら私とて、神から加護を受けた《恩寵能力ギフトスキル》を封じることは不可能です。ですがイクトの場合、《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》でしたっけ? いくら魔力を増幅させても魔法が打てなければ効力を発揮されません。つまり魔法の使用を封じることなら、私でも可能なのです」


「よ、要するに、二度と魔法を使えなくするのか?」


「はい。グレンさんが施されている《呪われし苦痛カース・ペイン》と同様の呪術です。ですが少し改良を加えます――今後、魔法を発動しようと術式や魔法陣を思い描くだけでも壮絶な激痛が襲うようになるでしょう」


 女神マイファから授かった魔力を封じることはできないので、魔法を完成させる工程で必須な術式と魔法陣の構成作業を出来なくするという発想か。


 流石、元勇者パーティの知恵袋だ。

 臆病な性格が祟り戦闘時はイモばっか引いていたゲイだが、その分やたら頭が切れる。

 俺を変な目で見なければ、そこそこ尊敬できる魔法士だ。


 シジンは懐からナイフを取り出し、先端を自分の人差し指に向けて軽く刺した。

 傷口から血が滴り、イクトの頭部に向けてぽたぽたと落としていく。


「――《呪われし苦痛カース・ペイン》。イクト、貴方は二度と魔法を使用することできない」


「やめろぉ! やめてくれぇぇぇ、ぎゃああああぁぁぁぁ、熱い!! 熱いよぉぉぉぉ!!!」


 絶叫するイクト。

 シジンの血液がイクトの額に浸透し、ジュゥゥゥと蒸発して煙が上がる。

 間違いなく16年前、俺が前魔王に施された呪いと同様だ。


 こうして、イクトは勇者剥奪だけでなく魔法の使用さえも封じられた。


「流石、シジン卿。皆よ、これでイクトの裁判を閉廷する! とっとと、このゴミを牢屋にブチ込め! そして迅速に監獄行きの手配をせよ!」


 ロイス国王の指示で、王宮騎士達は「ハッ!」と威勢の良い返答をして再びイクトを拘束する。

 そのまま連れ出そうと奴の両脇を担いだ。


「い、嫌だぁ! 離せぇぇぇ! こんなの間違っているぅ! そうだろ、僕の婚約者であるアムティア! エアルウェン! リフィナ! グレン兄ぃ! なんとか言ってくれよぉぉぉ!!!」


 イクトの奴め。

 あれだけのことをやらかして、まだ俺達をパーティだと思っているのか?

 お前今さっき、その婚約者と称するアムティアの父親を殺そうとしたんだぞ?


「誰が婚約者だ! そもそも私は一度たりとも認めておらん! イクトよ、貴様など勇者でもなんでもない! 魔族と同様の悪鬼だ! 孤島の監獄で永遠に反省しろ!」


「二度と会うことはないわ、さよなら」


「……地獄に落ちろ」


 三人共、これまで散々酷い目にあっていただけに情の欠片も残っていない。

 当然のことだ。


 そしてようやく痛みが消失した俺はすくっと立ち上がり、イクトを見据える。


「俺もみんなと同じ意見だ。イクト、お前は最初から俺達をゲームキャラやラノベヒロインとしか見てなかった。それに前にも言った筈だぞ、一線を超えたお前は既に仲間じゃない……残念だ」


 本当なら、もっと言ってやりたい言葉はある。

 しかし、経験者の俺がイクトを導けなかったのも事実だ。

 いくら理解不可能なサイコパス野郎でも、そこは反省すべきだと思った。


 俺達から気持ちを打ち明けられ、イクトは歯がボロボロに抜け落ち血塗れの大口を開けて愕然とする。


「そ、そんな……嫌だぁ! こんな仕打ち、あんまりだぁぁぁぁ――……!!!」


 騎士達に連行されながら、イクトの怒号と悲鳴が延々と城内に鳴り響いた。



―――――――――――


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