第18話 改変してやんよ!
「アムティアよ、わかっておる。グレンは前勇者を正しく導いた実績がある……その者も色々と問題児ではあったが、まだ仲間の意見を聞き入れ周囲に配慮する礼節をわきまえていた。そう考えれば、イクトは純粋なのだろう……ただし悪側のな」
ロイス国王の言葉に、イクトは首を傾げる。
「悪側だって……この僕が?」
「そうだ、イクトよ。善と悪は表裏一体であり紙一重の存在でもある。皆が言うように、貴様の思考は至って利己的であり魔族と同一だ。連中とて自分が悪だと思っていない……我ら知的種族を捕食する、あるいは己の力を誇示する獲物程度という認識だ。その感覚は、貴様の好きな
「ぐっ……違う! 僕は魔族じゃない! 女神に選ばれた勇者だ! はっ、そうだ! これは罠だ! グレン兄ぃが僕を陥れるための罠なんだ!」
イクトの野郎、しまいには俺にせいだと言い始める。
どこをどう捉えればそうなるのか謎だ。
「グレンが貴様を陥れるだと?」
「そうだよ、王様ッ! グレン兄ぃはパーティの女の子とイチャコラしたくて、勇者である僕が邪魔だったんだ! つまりNTRだよ! 僕からみんなを寝取ろうとする画策だよぉぉぉ!!!」
「いい加減にせんか、イクトォ! 我が師匠への暴言と冒涜ッ、このアムティアが赦さんぞぉぉぉ!!!」
「そうよ! グレンくんは、ずっとキミのこと親身にフォローしていたのよ! なのに、そんな言い方はないわ!」
「……マジでクズ。どうしょうもない」
アムティア、エアルウェン、リフィナが俺の潔白を訴えてくれる。
まぁ、そんな戯言なんて誰も信じるわけねーけど。
けど、イクトは違った。
「ほらな、王様ッ! 三人とも洗脳されているんだよ! グレン兄ぃに魅了され、僕を嫌うよう操作されているんだ!」
「……イクトよ、貴様の頭は大丈夫か? いや本当に気が狂っているようだ。いいか、グレンは『竜戦士』だ。古来より神に仕え守護してきた竜人族の中で選ばれし戦士であり偉大なる希少職種。しかもたったの9名しか選ばれないと言う……グレンは人族の中で唯一、その地位に就く男だ。いくら本人が引退したと言い張ろうと、竜戦士としての権威は今も続いておる。そやつが死ぬまでな」
そう、だから戦えない身体となろうと俺は他の職には就けない。
どのような形にせよ、冒険者でないと食っていけないってわけだ。
「無論、師匠は魔法が使えぬ! それも何度も説明しているのに……こやつは!」
「アムティアよ、もう良い。これまでの尋問でイクトの気性はよく理解した。其方らの報告通りだと認めよう」
ロイス国王が制止を呼びかけ、アムティアは「わかりました」と身を引く。
そしてイクトに対し、国王は冷たい眼差しを向けた。
「――イクト、先程申した通り貴様から勇者職を剥奪に加え、フォルセア王国から追放処分とする!」
「なっ、追放だと!?」
「そうだ。本来なら大罪人は即極刑だが、そんなの生温い。貴様には犯した罪と向き合うため死ぬまで孤島の監獄で過ごすが良いぞ」
またあえて極刑にしない理由として、これまでの功績も反映されているらしい。
どちらにせよ、イクトの人生はオワコンってわけだ。
が、しかし――。
「……ざけるな」
「なんと?」
「ふざけるなァァァァ――ッ! そんなの認められるかァァァッ!! 僕は勇者イクト、異世界の主人公であり最強の勇者なんだァァァァァァ!!!」
イクトはブチギレた。
体内から膨大な魔力が放出され、足元から大きな魔法陣が出現する。
拘束されていた魔力ロープを引き千切り、周囲の王宮騎士達を吹き飛ばした。
「ぐおっ! なんという力だ!?」
「バカな、これほどの力とは!?」
「我らの装備が役に立っておらんぞ!」
騎士達が起き上がり動揺する。
身に纏っていた鎧と大盾が圧倒的な魔力量により溶かされかけていた。
コーティングされていた《
これがイクトの《
その名の通り、天井知らず魔力を発揮するチートスキルだ。
欠点として、自分では魔法の改良や強化ができないという縛りがある。
にしてもヤバイ、なんて魔力の放出量だ。
王城全体が激しく揺れ、一部が崩れ落ちていく。
このままだと城が陥落してしまうぞ!
「もういい! この僕を肯定しない糞邪魔なモヤモヤ連中は、俺TUEEEで全員排除してやるゥゥゥ!! 正しいテンプレ異世界ストーリーに改変してやんよォォォォォ!!!」
力に溺れたイクト。
いや違うな、ついに本性をむき出しになったというところか。
こりゃまた誰かが犠牲になる前に止めるしかない。
……やはり俺か。
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