第17話 純粋を超越した邪悪

 


 この俺、グレン・ドレークは転生者であるため地球での記憶が残っている。


 ブラック企業の社畜として特に出世もせず万年ヒラ社員のままだった。

 しかし営業の成績がそこそこ良かったため、よく人材育成など任されたものだ。


 特に新入社員研修とか定評があったと思う。


 今時の若者達の大半は昔と違って「見て覚えて、やって覚えて」が通じない。

 業務マニュアルを作成した上で、懇切丁寧に手取足取り指導しなければ早期に覚えられないと学習した。


 その経験は異世界でも活かされ、特に勇者の『導き手』として大いに役に立っている。

 まぁ担当した勇者には「口うるさい、お母さんみたい」と色々ツッコまれ、時にウザがれていたけどな……。


 今回の勇者イクトも、そんな感じて良いだろうと高を括っていたことは認めよう。


 しかし世の中、いくら懇切丁寧かつ親身に接してもイカレている奴はいる。

 バカは死ななきゃ治らないというが、あれは嘘だ。

 結局、死んで召喚されても治るどころか、より厨二病を炸裂させ益々酷くなったとしか思えない。


 明らかにイクトを選び召喚させた女神マイファの誤算だな。

 けどまぁ、女神が厳選する「純粋無垢な魂」には確かに該当する男かもしれない。


 確かにイクトは純粋無垢だろう。

 だがそれはバカで愚か者と言う意味でだ。


 無知は罪という言葉があるが、イクトは学ぼうとする気すらない。

 常に現実逃避した謎の自信と自己陶酔の塊であり、失敗を犯しても自分の都合の良いように解釈して同じことを繰り返す。


 ――純粋無垢を超越した邪悪。


 それは魔族に近い利己的な性情に沿った思考だ。

 一年間、イクトを見てきて俺はそう理解する。


 子供が平気で虫やカエルを殺すのは発達のためと言われているが、きっとイクトも同じ感覚だと思う。

 また奴の場合、未発達のままゲームとラノベの影響で召喚された異世界も混同として見誤って好き放題に自分のいいようにやらかしてしまったのだ。


 それに俺達のことも共に戦う仲間として見てくれなかった。


 現に俺のことなんて冒険をナビするゲームキャラの一人だと決めつけ、アムティア達もラノベに登場する肯定派のヒロインだと思っていた節がある。

 あのイキリぶりや単身で暴走していた行為が何よりの証拠だ。


 結局のところ、イクトは最初からイカレていた。


 だが俺に責任が全くないとは思っていない。

 イクトが犯した不始末のけじめは俺がつけなければならない。


 あいつの裁判を傍観しながら心のどこかでそう思っていた……。




「バカな!? 僕は女神アスファに導かれた勇者だよ! これまで沢山のモンスターを斃し魔王軍の幹部も斃してきたんだ! みんなだって僕の力を頼っていたじゃないか!? 一緒に旅をして共に頑張ってきたじゃないか!? なのに、どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ!?」


「イクトよ、貴様の功績は認めよう。だがそれ以上に甚大な被害を出しておる。戦いに巻き込まれ命を奪われた民の中には幼き子供もいるとか……貴様はそれをどう思う?」


 ロイス国王の問いに、騎士達に抑えつけられ跪き項垂れているイクトは奥歯を噛みしめる。


「んなの所詮、NPCのモブキャラじゃないか!? キルしたって友好度が少し下がるだけだろ!? どうせ後で沸いて現れるんだ!」


「友好度だと? また何を意味不明なことを……グレンよ、嘗ての『導き手』としてわかるか?」


「はい、陛下……そやつは召喚される前の世界にある仮想世界の遊戯ゲーム設定と混同されております。遊戯ゲーム故に人の命は軽い。イクトはずっとそう思っています。勿論、私とアムティア姫からも何度もここは現実世界だと説明はしていたのですが……力及ばずにこのような事態を招いてしまいました」


「父上! 師匠は、いえグレン殿に非はございません! 全て私の力不足です!」


 俺の隣でアムティアが必死で弁明してくれる。

 周囲が「信じられん……それでは魔族と一緒ではないか」とざわつく中、ロイス国王が無表情で首肯した。



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