第16話 勇者よ裁きの時だぞ



「糞やかましい。それより、どうしてお前が陛下に呼ばれて来たんだ? 暇なのか?」


 俺の問いに、シジンは首を横に振るう。


「暇なわけないじゃないですか……一つ大仕事を頼まれましてね。後でわかりますよ。それと、有能なエアルウェンを守るためです。あんなしょーもない勇者のために彼女が処分を下されるのは納得できませんからね。ついでにグレンさん達も守って差し上げますよ」


「そうか……すまない」


 シジンは各国の王族に顔が利くからな。

 こいつが弁護に立ってくれれば少なくても極刑や追放処分は免れるだろう。


「その代わり今夜、私の寝屋に来てください。夜通し愛を語り合いましょう」


「うるせぇ死ね。けど、まぁ少し安心したよ……ガチで今回の勇者には参っている。ありゃ導いた女神マイファの責任だな」


「無論、我らに神を裁くことはできません。その矛先は女神マイファを祀る大聖堂に向けられています」


「なんだって? イクトを召喚したからか? ってことは……実行者の最高司祭であるレシュカ様は……」


「通常なら辞任するところですが、彼女の愛弟子である第二王女のセイリアさんが引き留めています。基本、娘達にはデレデレのロイス国王も咎める姿勢はないようです、ハイ」


「そうか。良かったな、リフィナ」


「……うん、ありがとうグレン」


 俺は最高司祭の義理娘であるリフィナの頭を優しく撫でる。

 彼女は大きな赤い瞳を細め、嬉しそうに微笑んでいた。


 すると、シジンが残念そうな表情を浮かべて見せてくる。


「ですが誰かが責任と取らなければなりません……無論、勇者イクト本人もですが、冒険に関与していた者達も同様です。おそらく私でも皆さんの名誉と地位を守ることぐらいしかできないでしょう。申し訳ないです、ハイ」


「別にシジンが謝る必要はないさ……実際イクトを導くことができず、暴走を止められなかったのは俺だ。相応の処分は覚悟している」


「いえ師匠! 本来の『導き手』は私であり、貴方を巻き込んだのも私です! そして、パーティのリーダーとして役割を果たせなかった……全ての責任は不甲斐ない私にあります!」


 アムティアは当然だと言わんばかりに自分を責め立てている。

 俺はそんな弟子の頭をポンと触った。


「それは違うぞ、アム。お前はよく頑張った……少なくても俺とエアル姉さんとリフィナはそう思っている」


「グレンくんの言う通りよ、アムちゃん。お姉さんもとっくの前に匙を投げたって言うのに、アムちゃんは一生懸命、イクトくんに寄り添おうとしていたじゃない?」


「……普通、アイツは無理。アム様、凄いと思った」


 仲間達の労いに、アムティアは青い瞳を潤ませ大粒の涙を零している。


「ありがとう……皆、最高の仲間達だ」


 噛み締めるように頭を下げてみせた。


 肝心のイクトがいないってのに、妙にしんみりしてしまう。

 この一年、それだけ大変だったんだ。


 それから間もなくして、俺達は騎士達に呼ばれた。



 ◇◆◇



 謁見の間に通されると、ロープでぐるぐる巻きにされたイクトが中央に立たされていた。

 奴の周囲には先程の王宮騎士達が取り囲み、暴れないよう槍を突き立てている。


 ――完全に重罪人扱いだ。


 イクトはまだ状況を飲み込めていない様子で、「え? え? これなんのイベントが発生したの? 拘束プレイ的な?」と未だにゲーム感覚のノリだ。

 まだ暴れないだけマシだけどな。


 俺達は騎士の誘導で、イクトから離れた壁際へと立たされる。

 どうやら重要参考人として扱われるらしい。


 玉座に鎮座していた、ロイス国王が重々しく口を開いた。


「では、これより勇者イクトの弾劾裁判を始める!」


「えっ、裁判!? なんの!? 王様ぁ、聞いてないよぉぉぉ!!!」


「今、初めて申したからな。勇者よ、まずここ一年の間で貴様が犯した罪状を述べよう――」


 かくしてロイス国王に口から、これまで勇者イクトがやらかした数々の罪が説明され白日の下に晒されていく。


 その犯歴の多さとエグさに加え、利己的かつ解釈不明のサイコパスぶりに、玉座の間に居合わせた者達が騒然となったのは言うまでもない。



―――――――――――


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