第15話 元仲間に狙われるワイ



 あの後、イクトを目覚めさせ作戦通りに「魔王幹部を打ち倒したことで、ロイス陛下から褒美がある」と嘘をついて戻ることになった。


「え? マジで? 僕ぅ、何かやっちゃいました~ん!」


 思惑通り、イクトはすっとぼけながら喜んで受け入れた。

 そのイキリぶりに、最早怒りを通り越してハッピーな野郎だと色々な意味で感服する。


 残りの路銀で馬車を購入し、約一カ月程でフォルセア王国に帰還した。


 え?

 一年間も旅をしたのに、やたら戻るの早くないかって?

 それには理由がある。


 以前少し触れたが、時間を費やしていたのは「魔王城」を探していたためだ。

 魔王城とは魔王が潜む城という意味だが、必ず陸地の城であるとは限らない。

 出現する魔王によってダンジョンの中であったり、海中や火山地帯であったり、天空の浮遊都市を構えていたということもある。

 また最悪一般人に偽装し紛れているケースもあったと古文書に記されていた。


 俺達勇者パーティは出現した魔王の情報を集め、人物および潜伏場所を特定する作業を延々と繰り替えさなければならない。

 どこに出没したのか形跡はないのか、どの国や大陸に現れたか、またどのような姿で能力が備わっているのか。


 最も手っ取り早い方法は、幹部の魔族を生け捕りにして魔王の情報を吐かせることだろう。

 今回もそのチャンスがあったにもかかわらず、イクトのアホが即キルしてしまった。


 まぁどちらにせよ、今の俺達は追跡する資格すら失ってしまったんだけどな……。



◇◆◇



 フォルセア王城内は異様な静寂に包まれていた。


 迎え入れた門番兵から騎士達にかけて、特に何か言ってくることはなかったが、やたら口数が少ない。

 おそらくロイス国王から「余計なことは言わないように」と指示を受けているに違いない。


 俺なら「何か怪しいぞ?」と直感が過るものだが、イクトにはそれがない。

 至って平常運転であり、会う者達に向けて「ただいま~!」とお気楽に挨拶をしていた。



「――陛下からお呼びか掛かるまで、アムティア様とパーティの皆様はこちらの部屋で待機なさってください。勇者様は我らと共に別室でお願いします」


 護衛の王宮騎士が言ってくる。

 その数10人程おり、どいつも全身に鎧を纏い大盾を装備した重武装だ。


 ちなみに騎士達の鎧と盾には聖神魔法で《対魔法防御領域アンチマジック・フィールド》が施されている。

 明らかに対イクト戦を想定した装備だ。


 そのイクトは警戒することもなく、「はいはい~、英雄だから身形を整えろってわけだねん」と幸せな捉え方で理解し、スキップしながらついて行く。

 やべーを通り越して哀れに見えてきたぜ。


 待機している間、俺達はソファに座った。

 途端、ドッと疲労が押し寄せてくる。


「「「「はぁ……」」」」


 妙な解放感に侵され、一斉に溜息を吐いてしまう。


「――皆さん、相当お疲れのようですねぇ、ハイ」


 静かな動作で一人の男が部屋に入ってくる。


 純白の魔道服を纏う中年の魔法士だ。

 身体が細く痩せたており、緑色の髪を背中まで流した年齢の割には若作りした優男風でもある。

 その手には魔法石が埋め込まれた魔杖が握られていた。


 中年魔法士の姿を見た瞬間、エアルウェンが真っ先にソファから立ち上がる。


「こ、これは本部長……どうしてこちらに?」


「はい、ロイス国王の要請で呼ばれましてねぇ……久しぶりですね、グレンさん」


「シジンか。ああ久しぶりだな」


 こいつは、シジン・スロード。

 俺と同じ元勇者パーティで仲間だった奴だ。

 現在43歳で人族の仲間では最年長だった。

 凱旋してから、その功績を称えられ魔法学連協会の本部長へと出世している。


 魔法学連協会とは魔法を研究し魔法士を育成する機関であり、各大国に支部として設置されていた。

 シジンはそれら大陸中の支部を総括する立場にあり、エアルウェンの上司でもある。


「ええ。しかしグレンさん、相変わらず良いお尻の形ですね……ついムラっとしてきます」


 ちなみにこいつは生粋の男色家ゲイだ。

 よく俺にワンチャンを狙って迫ってきた。


 無論、俺はノーマルだ。

 丁重に断りつつ、あまりしつこかったらブン殴って回避していたもんだ。



―――――――――――


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