第14話 災害級の賠償っすわ



 その後、イクトが目を覚まさないようエアルウェンが《眠りの魔法スリープ》を定期的に施して大人しくさせた。

 どうせ目を覚ましても反省などせず、また好き放題やるに決まっている。


 また「僕ぅ、また何かやっちゃいましたぁ?」っていうノリで――。


 流石に今アレをやられたら、殴るどころじゃなく下手したら殺してしまうかもしれない。

 俺じゃなくても他の三人が黙ってないだろう。


 もう誰一人としてイクトを勇者だと思っていない。

 だから何も期待していない。


 その頃、俺達はそこまで追い詰められていた……。




 三日後。


 俺達は辺境地の宿屋に泊まっていた。

 あれから報告を聞いたロイス国王が配慮してくれて、「責任は全てフォルセア王国が取る」とし勇者パーティはお尋ね者ではなくなったからだ。


 これも愛娘のアムティアがパーティにいるからこその厚遇というやつだろう。

 本来なら見放されてしまうのがオチだからな。


 だからこそ、俺達は責任を負わなければならないのだが。



「――案の上、ロイス国王は酷くご立腹よ。今回の件とこれまでイクトくんがやらかした損害の弁償と被害者への補償を含め、総額1000億Gの負担を強いられていると怒り心頭のようだわ」


 伝達魔法の《言霊の鳩ラグ・ピジョン》を受け取った、エアルウェンが解読してくれる。


 日本円にして1000億円か……あれだけやらかし死者まで出しておいて、逆によくその程度で済んだものだ。


 おそらく魔王軍と魔物を斃したのは事実なので、勇者特権が適応されたのか。

 どちらにせよ、災害級の賠償には違いないけどな。


「それで父上から他になんと?」


「早急に戻って来いって。イクトくんを連れて……」


 アムティアの問いに、エアルウェンは率直に答える。

 おそらくフォルセア王国で、イクトを裁判にかける考えか。

 魔王討伐の任務中でろくに成果も出してないのに呼び戻されるなんて……恥だな。


「エアル姉さん、俺達に対する処分とかは?」


「そうね、グレンくん……パーティに対して特にどうこうするって明言されてないわ。まずは勇者に処分を下して、それからってなるのかしら?」


 つまり後回しか。

 それはそれでドキドキして嫌な感じだ。

 まぁ、実娘のアムティアがリーダーしているパーティだから極刑はないと思いたいがな……。


「……グレン、パーティ解散?」


「わからない。何せ任務中の勇者を呼び戻すなんて前例がないからな……けど最悪それで済まないかもしれない」


 俺は寂しそうに訊いてくるリフィナの頭を優しく撫でた。


 本来、多少ポンコツ勇者でも寛大に見てくれるものだが、今回ばかりはシャレにならん。

 それこそイクトが言うギャグ漫画なら怒鳴られスルー出来るかもしれんが、現実リアルじゃただの殺戮勇者だ。


 いくら俺達が必死で止めたと訴えても被害者が出ている以上、何一つとして説得力はない。

 ガチでイクトを選んだ女神マイファに責任を取らせたい心境だ。


「師匠、勇者殿……いえ、イクトはどうしましょうか?」


 もうイクトを勇者と呼ばなくなった、『導き手』のアムティア。

 

「どうするとはどういう意味だ?」


「はい、このまま寝かせた状態で連れて帰るのは困難です。かと言って下手に事情を話しても受け入れるかどうか……最悪な話、今のイクトが拒み暴れられても私達には成す術がありません」


「なまじ《恩寵能力ギフトスキル》があるだけに尚更か……まったく第二の魔王みたいだな、こいつ」


 いっそ、この場で亡き者にしちまうかと過ってしまう。

 流石に俺の良心が咎めてしまうけど。


「イクトくんの性格上、下手に本当のことを伝えるより『国王からのご褒美』とか誤魔化した方が、調子に乗ってホイホイついて行くんじゃないかしら?」


 パーティの知恵袋であるエアルウェンが提案してくる。

 確かにイキリ勇者の野郎なら、すぐ騙されて素直について応じるだろうぜ。


 こうして俺達はフォルセア王国に戻る羽目となってしまった。



―――――――――――


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