第13話 これ、どうするのよ?
ついにイクトがやらかした。
魔王軍との戦闘で一般人から被害者を出してしまったんだ。
死者126人、安否不明者222人――。
既に幹部の魔族である岩鉄のムーヴが消滅していたのに上級魔法を連発しやがった結果だ。
おかげで300名はいた魔王軍の兵士も殲滅できたが、その飛び火は町の建物まで広がり阿鼻叫喚の巷と化した。
アムティアが必死で止めに入るも、イクトは呪文を連呼して凄まじい爆炎が広がり灼熱が町中を包んだ。
エアルウェンも魔法で消火活動に当たるも、チート能力故に威力が半端なく高度な魔法士である彼女でさえ手に負えないでいる。
リフィナは怪我人や重症人の手当と回復を行うも、一人でどうにかできる範囲ではなく被害が広まる一方だ。
そして本来、戦闘には参加しない雑用係の俺が駆けつけ、暴走するイクトの後頭部を拳で殴った。
「何やってんだ、テメェ!」
「ぐおっ――!?」
勇者イクトは吹き飛び、何度か地面に転がって白目を向いて気を失った。
直後、俺の全身から耐え難い激痛が襲う。
「うぐぉぉぉ……ちくしょう! ついガチで殴っちまった!」
前魔王に施された呪い《
この痛みは1分間ほど続いてしまう。
それでも辛うじて立っていられるのは、竜戦士として鍛え上げてきた成果だろう。
「師匠、大丈夫ですか!?」
アムティアが安否を気遣い寄り添ってくる。
「お、俺は大丈夫だ! アムはエアル姉さんとリフィナのサポートに回ってくれ! 痛みが消えたら、俺も支援に回る!」
「わかりました!」
指示を受けたアムティアは迅速な行動に移る。
俺は痛みを耐えながらチラっと気を失っているイクトに視線を向けた。
「……本末転倒どころじゃない、こいつは駄目だ。選別した女神マイファの責任もあるぞ!」
素直にそう思ってしまった。
まぁ神界にいる女神に責任を取らせる方法なんて知らねぇけど。
一通りの消火活動と手当を終えた俺達は即行で町を出た。
とても滞在できる状況じゃない。
町の人達から怨嗟に満ちた眼差しを向けられ、中には「役病神め、出て行けぇ!」と石を投げる者もいた。
とても栄光ある勇者パーティに対する仕打ちじゃない。
しかし、これだけ無用な被害を出してしまったんだ。
当然の怒りだろう。
町外れの森で、俺達は身を隠す形で小休止することにした。
仲間達は一切戦っていないのに疲労感だけは半端ない。
イクト以外のみんなは全身が真っ黒な煤まみれの状態で、軽度の火傷さえ見られている。
特にリフィナは民達に投げられた石が頭部に当たってしまい血を流していた。
「大丈夫か、リフィナ?」
「……うん、グレンがナデナデしてくれたら治ると思う」
そんなんで治るわけないだろ?
けど、リフィナは旅を続ける中で俺に心を開き懐いてくれている。
なんでも戦火に巻き込まれて亡くなった父親に似ているのだとか。
そんなリフィナの不憫な過去と心の闇を知った俺は彼女を受け入れ、仲間として大切に思うと同時に可愛がっている。
対してリフィナは若い男が苦手なようで、特にイクトは無神経に繊細な心の中へと土足で踏み込んでくるので酷く毛嫌いする背景があった。
俺はずっと背負っていた呑気に気を失っているイクトを降ろして身を隠す。
まるで犯罪者になった気分だ。
いや十分すぎるほどの犯罪一味だろう。
「……師匠、これからどういたしましょう?」
アムティアが不安げな眼差しを向けてくる。
一応、この勇者パーティのリーダーは彼女だけどな。
「正直、このまま旅を続けられるとは思えない……が、どうするかは俺達が決めることじゃない。ここは支援者であるロイス国王に包み隠さず状況を説明し、指示を仰ぐのが適切じゃないか」
「そ、そうですね……エアル殿、頼めるか?」
「わかったわ……まぁ予想は着くけどね」
エアルウェンは溜息混じりで掌に魔力を集め、鳩の形へと姿を変えていく。
鳩は翼を羽ばたかせ大空へと飛び立ち消え去った。
三日もあれば返信が来るだろう。
それまで俺達は身を隠さなければならない。
ここまでやらかしたのだから、きっと「お尋ね者」になってしまっている。
どうせ裁かれるなら自国で執行された方がまだ温情も与えられるかもしれない。
こうして三日間、俺達は野営をしながらロイス国王からの返答を待つ。
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