第11話 爆走する勇者


イクトside



「勇者殿、唐突に何を申されているのです!? まさか師匠を追放などと! 言って良いことと悪いことがありますぞ!」


「アムちゃんの言い通りだわ。あれだけグレンくんがキミを庇ってくれているのに……彼がいるからお姉さんも黙っているんだからね!」


「……何ムーブ? 頭イカレている」


 あれれ~、可笑しいぞぉ。

 アムティア、エアルウェン、リフィナから不満の声が聞こえてくる。

 ここは「そうね」って乗っかるところでしょ?


 まぁ、それっぽい説明をすればラノベ読者ばりに納得するだろう。


「これから戦いは激化すると思う。そうなれば戦えないグレン兄ぃを守り切れる保証はないんじゃないか?」


「師匠が戦えない理由は、勇者殿に何度も説明していますよね? それに師匠は自分の身は自分で守れる方です! いい加減、怒りますぞ!」


「そもそも雑用係のグレンくんは戦闘に参加してないんじゃない。最もキミの傍にいた方がオーバーキルに巻き込まれ命の危険に晒されるわ」


「……寧ろ、お前を追放してやりたい」


 酷い。


 特にリフィナの一言が僕の胸を抉った。

 どうして、この子は僕に対して毒舌なのだろう?

 以前、グレン兄ぃの真似してリフィナの頭を撫でてやってからこの有様だ。


 アムティアもエルウェンもまったく聞く耳を持ってくれない。

 なんだ、この無能ぷりは?

 知能デバフでもあるのか?


 まさか、グレン兄ぃ……実は魅了系の魔法で彼女達を洗脳しているんじゃないだろうな?



「――ただいま。買い物の途中、ギルドに立ち寄って魔王城の在処について調べたがわからなかったよ。やはり魔族達が騒ぎを起こしている村や国を片っ端から探るしかないな……って、みんなどうしたんだ?」


 物資の調達を終えたグレン兄ぃが戻ってきた。

 しれっと僕達の様子を眺めて首を傾げている。


「いや別に……グレン兄ぃって魔法とか使えるの?」


「前に説明したろ? 竜戦士は魔法ではなく『竜気』を操る……イクトの大好きなゲームに例えるなら自分自身に強力なバフを施すような戦い方をする。それに今の俺は、前魔王にしてやられた《呪われし苦痛カース・ペイン》のせいでその力が使えない……まぁ低級の魔物程度なら普通に剣を振るって斃せるけどな」


「本当にぃ~? 実は本気を出してませんでした系じゃないのぅ? それに隠れスキルとか持っているんじゃないのぅ……洗脳とか魅了系とかぁ」


「あるわけないだろ。元戦士だって言っているじゃないか。どうしたんだ?」


 僕はさりげなく名探偵ばりに探りを入れていると、アムティアが物凄い形相で割って入ってきた。


「大概にしろ、勇者殿! 師匠、夕食にいたしましょう。私もお手伝い致します」


「ありがとう、アム」


「グレンくん、お姉さんも手伝うわ」


「……リフィナも。グレン、ご褒美に頭ナデナデしてぇ」


 三人はグレン兄ぃに群がり、僕のことを無視してテキパキと夕食の準備を始めている。

 すっかり僕は蚊帳の外だ。


 なんだよ……これ?

 めっちゃ温度差を感じるぞ。

 少なくても若い勇者とおっさん雑用係の立場じゃないと思う。


 まったくもって整合性が取れていない。

 こんなんで作者(女神マイファ)と読者(脳内?)は納得するのか?


 いや、するわけがない――。

 僕は勇者で物語の主人公だ!


 諦めずに戦えば、きっと最後は僕が勝つに決まっている!

 今はヘイトを溜めて耐えようじゃないか!

 案外そういう設定の逆転物語かもしれないぞ。



◇◆◇



 それからも僕の冒険は続いた。

 

 時にレア・アイテムやコインを稼ぐため、NPCの家に入り込みタンスや壺を破壊してみる。

 壺には臭ぇ漬物しかなかったけど、タンスにはしっかりお金が入っていた。

 当然、僕のモノなのでもらうことにする。

 

 アイテムはなかったな……。

 そうして物色していると、村人NPCが現れ僕に何か言ってきた。


「ちょっと! あんた人の家で何やっているんだ!? 誰かぁ、誰かぁーっ!」


「衛兵隊だ! 貴様ァ、勝手に他人の家に入り込み器物破損に窃盗とは、なんて不届きな奴め!」


「ありゃ、こういう仕様なの? もういいじゃん、どうせ次に来た時は元通りになっているんだからさ」


「何をワケのわからんことを! ひっ捕らえろぉぉぉ!」


「うっさいなぁ、黙れよ! NPCの癖にぃぃぃ!!!」


 僕は生意気な衛兵共に向けて魔力弾を撃ち、その場にいた全員を吹き飛ばした。



―――――――――――


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