第7話 師匠と弟子



「……同感です。しかし、そう時間がないのも事実です。魔王の再来に伴い残党だった魔族共が集結し、各地に侵略を開始しているとの報告もあります。それに……」


 アムティアは何か言いづらそうに言葉を詰まらせている。


「それになんだ?」


「明日、魔王討伐部隊として編制された二名の仲間達が来ることになっております」


「つまり勇者パーティとなる人員か?」


「はい……いずれも女性であり、各方面から選抜された由緒正しき者ばかりです。今の勇者殿に会わせて良いものか悩んでいます」


 アムティアの話では、イクトは気に入った女性の前で必ずと言って良いほどイキリ始めるとか。

 確かにその筋から選ばれたエリートの前で、自国の恥=厨二病勇者を晒すのはヤバイな。

 けど何か可笑しいぞ。


「アムを入れて四名か? 勇者パーティにしては少ないな……あと一人くらい人員はいなかったのか?」


「ですから、そのぅ……師匠に同行して頂きたくて」


「俺に同行? まさか勇者パーティに入れって言うのか?」


 俺の問いに、アムティアは真っすぐに青い瞳を向けて頷いて見せる。

 彼女の熱い視線に直視できず、思わず目を反らしてしまった。

 

「……無理だ。俺がまともに戦えない身体なのは知っているだろ?」


「はい。15年前、魔王に施された《呪われし苦痛カース・ペイン》ですね」


 アムティアの言葉に、俺は目を合わせず頷いた。

 


 あれは15年前、魔王城での最終決戦時だ――。


 仲間達の後押しを受け、俺と勇者の二人は魔王を対峙することになる。

 激戦の末、勇者が身を挺して魔王の攻撃を防いでいる間、俺は魔王に致命傷の一撃を与えた。

 しかしその際、魔王の血飛沫を浴びた俺は呪われてしまったのだ。


 それが《呪われし苦痛カース・ペイン》。

 真の力を発揮する度に常人では発狂死するほどの耐え難い激痛を伴う呪いだ。


 この呪いのせいで俺は現役を退き、今じゃ支援役や雑用係など直接戦闘を避けた職種について日銭を稼ぐ毎日を送っている。


 今に至るまで色々な伝手を頼って呪解を試みたが無理だった。

 本当ならあのまま冒険者を辞めればいい話なのだが、元「竜戦士」という肩書きのおかげで出来ない事情があったからだ。



「――そうだ。名誉職である勇者パーティは他国や各地のギルドから優遇されるから、荷物持ちや雑用係なんて必要ないだろ? それよりも前衛など即戦力を加えるべきだ」


「……かもしれません。ですが、私としては師匠には『導き手』として、共に勇者を正させて頂きたいのです。正直、私一人では……難儀しております」


「確かに勇者を手懐ければ、一人分以上の戦力にはなるか……《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》だっけ? 古書にも記されていない超強力な《恩寵能力ギフトスキル》だな……わかった。アドバイザーで良ければ引き受けよう」


 俺の返答に、アムティアの表情がパッと明るくなる。


「本当ですか師匠!?」


「まぁな……その前に、まずは仲間の二名に会わせてくれ。それだけのヤバイ勇者だ。皆で一致団結した方が良さそうだからな」


「はい、勿論」


 こうして、俺は雑用係として再び勇者パーティに加入することになった。

 ぶっちゃけ面倒だとか難癖つけて断ることも出来ただろう。


 ……けど出来なかった。


 不安そうな表情を浮かべる愛弟子、アムティアの顔を見ていたらそんな薄情なことが言えるわけがない。


 俺が師匠になったのは、アムティアが6歳になった頃。

 きっかけは元仲間で第二王女のセイリアと王妃のクラリス様から城に招かれた時に、あの子を紹介されたんだ。

 

 なんでもアムティアは、姉と母親から元魔王を討伐した竜戦士の武勇伝を聞かされていたらしく、俺に興味を持ち同時に憧れていたらしい。

 また第五王女ということもあり、本人は嫁がず騎士として国に仕えたいと強く望んでいたとか。


 その日暮らしの俺は報酬の良さから引き受け、アムティアの専属指南役として自分の身に着けた剣技と戦闘術を教え込んだ。

 元々才能がある彼女は大体の技術はマスターしている。


 と言っても、まだまだ粗削りで未熟な部分が多い。

 だからこうして顔を合わせ、様子を見ながら相談を受ける間柄でもあった。



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