第6話 手に余る勇者



「魔王の詳細についてはわかっておりません……ですが最短で出現したことで、それに対応するべく異界から勇者を召喚したことで、その者を導く『導き手』が必要となりました……しかし何分、急ピッチ。早々に転移者を見つける術がございません。苦肉の策として、この私が『導き手』としての役割を父上、いえ陛下から受けたのですが……」


「その勇者が手に余るってか?」


 俺の問いに、アムティアは無言で頷く。


 どういう事情かは知らないが、この異世界では魔王が出現する度に嘗て俺が住んでいた日本から人間を召喚する決まりとなっている。

 無論、勇者は一人ではなく七つの大陸から一名ずつ召喚され、ここフォルセア王国も女神アスファの加護を強く受けてその代表国となっていた。


 召喚される対象は向こうの世界で不遇の死を遂げた者に限られ、純粋で無垢な心を持つ者とされている。

 また女神アムティアに神界に導かれ、《恩寵能力ギフトスキル》を得て当時の肉体を蘇生させてもらって転移されるととから、勝手に転生された俺とは違うVIP待遇なのは確かだ。


 だがネックもある。

 それは、この世界のことを知らないまま訪れること。

 俺のように赤子からやり直した者と違い、連中は当時のまま召喚されるから、カルチャーショックを受けてしまう者が多い。


 それを緩和するのも『導き手』の役割だ。

 なので似たような境遇と向こう側の記憶を持つ、転生者が適任だとされている。


 15年前、俺が導いた勇者も同じだった。

 ずっとスマホの電波を探していたり、Wi-Fiが通じないとか、コンビニがないとか言っていたからな。


「……勇者の名はイクトと申します。女神アスファより、とても強力な《恩寵能力ギフトスキル》を授かっております。ただ、なんと言いましょうか……あまりにも常識がなさ過ぎて……私の場合、師匠を見ているから尚更そう思うのでしょうか?」


 アムティアはそう言いながら、イクトという勇者について一通りのことについて話始めた。



 数分後。


「マジかよ。やべーな、そいつ」


「師匠もそう思いますか?」


「ああ、まず国王にタメ口ってなくね? そいつ16歳だろ? 目上に対しての口の利き方が知らないとかってないわ。それにアムに求婚を迫るって何? ウケ狙いだとしてもキモ寒くて笑えねーっ」


「まったくです。よりによって父上までも認めてしまう始末……無論、魔王が斃されようと、私は嫁ぎませんよ! 私には、す、既に心に決めたお方がおりますゆえ……」


 アムティアは最後の台詞を小声で呟きながら、何故か頬を染めて上目遣いで俺の方をチラ見してくる。

 まるで俺に気があるような仕草だ。

 

 出会った当初は俺のこと親戚のおじちゃん扱いしていたのに、最近じゃこうした態度をよく見せてくる。


 基が綺麗で可愛らしく魅力的に成長しているだけに、つい男として勘違いしてしまいそうだ。

 あくまで俺と彼女は師弟関係……年齢だって一回り以上も離れているわけだし自重しないといかんな。


「それで元『導き手』の俺に相談か……話を聞いただけでも、そのイクトという勇者は現実と空想の世界をごちゃ混ぜにした勘違い野郎ってことだけは理解した。文化や常識云々より、まずそれを認識させる必要があるだろうぜ」


「……はい。しかし勇者殿は私の話を聞こうといたしません。意味不明な用語を並べては、二言目には私との結婚をチラつかせ、自分の凄さを見せつけようと事あるごとにマウントを取ってくるのです」


「イキリってやつか……完全に厨二病だな、そいつ」


「厨二病?」


「あっ、いや……転生前の記憶での用語だ。思い込みが激しいというか……とにかく、その勇者をまだ外に出すべきじゃない。女神から強力な《恩寵能力ギフトスキル》を得ているなら、何をやらかすかわかったもんじゃないぞ」


 俺の意見にアムティアは従順に頷いてみせた。



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