第5話 姫騎士の相談


アムティアside



 勇者殿にも困ったものだ。

 出会って、たった数秒で求婚を迫ってくるとは……。


 私、アムティア・フォン・シルヴァィンはフォルセア王国の第五王女の末娘だ。

 四人の姉が隣国や同盟国に嫁ぐ中、私はそのような縛りがなくこうして姫騎士となり国と民を守る任務に就いている。

 父上的には、重鎮の貴族達が王族入りする出世目的の素材として考えているようだが……。


 あの勇者、まさかそれを狙って?

 だとすれば、一見して破天荒な振舞いも計算された強かさがあるのかもしれん。


 とはいえ私にはその気など一切ない。

 そもそも出会った数秒で結婚など荒唐無稽で意味不明だ。

 

 しかし父上が承認するとは思わなかった。

 やはり私の気持ちを知った上での嫌がらせか?


 おかげで勇者殿はその気になってしまい、いくら拒もうと私を婚約者だと決めつけてしまった。

 やれやれだ……仕方ない。


 とりあえず『導き手』として、まずは勇者殿に我らが住む世界の文化と文明をお伝えする役割がある。

 世界の常識を知ってもらうことで何が正しいのか理解してもらうためだ。


 だがどういうことだろう?

 勇者殿……私の話を聞いてらっしゃるのかがわからない。


 じっと私を見つめては「僕ぅ、アムティアを幸せにしてみせるからね」と言ってくる。

 いや、まず魔王を斃せよっと言ってやりたい。

 

 それに時折、「ステータスは表示できないのか?」「魔力測定器がないのか?」「セーブやコンテニューはできないのか?」「復活の呪文を教えろ」など、所々で意味不明な単語を持ち出し聞いてくる。


 カルチャーショックもあるのか。

 私には勇者殿が考えていることがわからぬ。

 やはり『導き手』は同じ世界を知る「転生者」でなければ無理なのだろうか?


 ならば、その「転生者」を見つけるしかない。

 だが容易ではなかった。

 通常は自己申告の上で最高司祭の見識がないと、その者が「転生者」であるかどうかわからぬからな。


 しかし私には当てがある。

 この世で最も尊敬する人物であり、陰の英雄と称えられしお方。

 ……そして密かな想い人。

 

 私の「師匠」であれば――。



◇◆◇



 この俺、グレン・ドレークは嘗て地球の日本という別次元の世界で過ごしていた記憶を持つ転生者だ。

 その時は45歳であり、ブラック企業に勤める社畜だった。

 ある日、長年の過労が祟り倒れてしまい、それ以降の記憶はない。


 気がつけば、この異世界で人族の赤子として転生していた。


 人族とは「人間」と同様のポジで、見た目はそう変わらない知的種族である。

 ただ時代や環境からか人間より身体が丈夫でフィジカルも高いと思う。


 それと俺のような転生者は稀に存在するらしい。

大抵は召喚された勇者の『導き手』として選ばれ役目を背負うことになるとか。

 

 嘗ての俺も『導き手』として、勇者パーティの一員として勇者を補助しながら前衛で戦っていたことがある。

 けどそれは15年前までのことで、あくまで過去の話だ。


 その時の職種は「竜戦士」という超レア職。

 何がレアなのか後々わかることになるだろう。


 とにかく15年前、なんとか魔王を討伐した俺は仲間と別れ現役を引退した。

 冒険者として各国で転々と周り日銭を稼いでいたが、彼女から呼び出されてしまう。


 ――姫騎士のアムティア。


 彼女が幼い頃から、俺にちょくちょく剣術や戦闘術の指南を受けていた言わば「弟子」にあたる少女だ。


 なので俺はアムティアを「アム」と呼び、アムティアは俺を「師匠」と呼んでいる。




 フォルセア王国の冒険者ギルドにて。


「――師匠。急にお呼び立てして申し訳ございません」


「俺は別に構わないよ、アム。しかしこんな場所で待ち合わせて良かったのか? 金色こんじきの姫騎士様の来るような場所じゃないぞ」


 俺の問いに、アムティアは首を横に振るい隣の席に腰を下した。


「いいえ、ここだから良いのです……城では落ち着いた話ができません。師匠、魔王の出現に伴い勇者が召喚されたことは知っていますよね?」


「ああ元仲間から聞いている。正直、今でも信じられないけどな」


「……仰る通りです。一世紀(100年)に一度の周期で現れる筈の魔王が、何故か今回に限り15年と最短で現れたのかわかりません。おかげで魔族や魔物は勢いづき、各地に災厄を齎しているようです」


「前回と同じ魔王なら斃し切れなかったのか? いや……そんな筈はない。最後のトドメは俺が刺したんだ」


 ぐっと拳を強く握りしめる俺に、アムティアは切なそうに見つめてくる。

 この子は全ての事情を知っている。

 何せ実姉が嘗ての仲間の一人だからだ。

 

 名はセイリア。

 第二王女で腕の立つ回復術士だ。

 現在は隣国に嫁いだ王妃であった。



―――――――――――


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