第8話 前途多難だぞ
次の日、フォルセア王城の客間にて。
「師匠、この二人が昨日話していた私達の仲間です」
「――魔法士のエアルウェンです。グレン様、伝説の竜戦士様にお会いできて光栄です」
アムティアの紹介を受け、魔道服を纏ったエルフ族の女性が丁寧にお辞儀をしてみせる。
すらりとした身長に長い水色髪で端正な美貌を持ち、抜群のスタイルで特に胸が大きい。
エルフ族と言えば長寿でありながら、見た目は小柄な十代の少女と変わらない容姿が多いが、彼女は随分と大人びていた。
なんでも近隣国の魔法学連協会から推薦されたエリート魔法士だとか。
「よろしく、エアルウェン殿。けど俺に『様』は不要です。今は現役を退いた、ただの雑用係ですから」
「いいえ、それでもワタシにとって貴方は魔王を討ち斃した大英雄です……けどそう仰るのであれば、これからは『グレンくん』と呼ぶわ。ワタシのことはお姉さんって呼んでね」
「お姉さん?」
「だって、グレンくん年下でしょ? お姉さん、こうみても750歳だもの」
なるほど、流石はエルフ族。
めちゃ長寿の方だったのね……にしても妙だ。
本来エルフは種族特性で魔法術士の適正が低いとされている。
反面、精霊魔法に長けており、また弓術士など精密かつ身軽さと素早さを活かした特性を持つ。
長生きした分、相応の努力を重ねた女性なのだろう。
まぁ温厚そうで性格も良さげだ。
「わかったよ。んじゃ、エアル姉さんと呼ばせてもらう……ん?」
俺はエアルウェンの片足にしがみつく少女に視線を向ける。
雪のような白い肌にツィンテールの白髪、そして赤色の大きな瞳。
神官服に身を包む、小柄で華奢な可愛らしく神秘的な少女だ。
にしても随分と若い、いや幼く見える……10歳くらいか?
それに俺のことを警戒しているのか、身を隠す形でじっと凝視している。
「……彼女は?」
「その者は、リフィナ・ジェスタと申します」
アムティアが教えてくる。
「ジェスタ? まさかアスファ大聖堂の最高司祭レシュカ・ジェスタの関係者か? 未だ独身だと聞いているが?」
最高司祭レシュカ・ジェスタは「勇者召喚の儀式」を担い、女神アスファの声を聞くことができるフォルセア王国を代表する重鎮であり、元仲間だったセイリアの師匠にあたる聖女だ。
現在、45歳の淑女で聖職者らしい人格者だと記憶している。
「ええ、レシュカ司祭が四年前に引き取った戦災孤児の養女だと聞いています。そしてリフィナ自身も僅か四年で神官の地位を与えられ、また回復術士として認められた11歳の天才児だとか」
「11歳? まさかこの子がもう一人の仲間なのか?」
俺の問いに、リフィナはこくりと頷き顔を隠している。
才能があるとはいえ、まさかこんな子供が勇者パーティとして選抜されるとは……。
いや、甘く見ない方がいいかもしれん。
長年の勘だが、通常の神官とは違う何かを感じる。
俺はしゃがみ込み、柔らかい笑みを浮かべてリフィナを見つめる。
「グレンだ。よろしく、リフィナ殿」
「……リフィナでいい。『殿』はいらない」
警戒しながらも、ぽつりと答えてくれる。
用心深いのか、それとも男性が苦手なのかわからない。
とりあえず、これでパーティ全員が集まったということだ。
あとは勇者を迎い入れ、魔王討伐に向けて準備し出発することになる。
魔族達が集結し、各地に驚異を与えている以上、そうのんびりしてられない。
間もなくしてアムティアが勇者イクトを連れて来た。
ぱっと見はどこにでもいそうな若い兄ちゃんだ。
短い黒髪のストレートに、童顔っぽい顔立ち。
身長もすさりと高く、前世で社畜だった俺よりもイケメンで羨ましい限りだ。
イクトはエアルウェンとリフィナに視線を向けると、何故か満足したようにニコっと微笑む。
「うん、これぞ美少女ハーレムだね。みんな、魔王を討伐したら僕と結婚しよう」
第一声からヤバイことを言ってきた。
こいつ、アムティアから聞いていた以上にイッちゃってるぞ。
イクトは俺と目を合わせてくる。
「……あ、あれ? どうして美少女達の中にオジさんがいるの? え? この人もパーティの仲間? えっと……僕の引き立て役キャラとか、そういうの別にいらないんだけどなぁ……読者の需要とかあるの?」
こいつに悪意がないのは雰囲気でわかる。
けどイキリ勇者以前に人として無礼な野郎だ。
前途多難だぞ、こりゃ……。
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