第2話 勇者の罪状

 


 イクトは女神からどう説明を受けたのかは謎だが、この異世界をラノベやゲームの世界だと捉えた様子で、自分は「物語の主人公」だと思っているようだ。


 それ自体は決して悪くない。

 逆にやる気があって微笑ましいと感心した。

 実際イクト自身も女神マイファから《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》という超強力なチート加護も施されていたから、そういった素質があるのだろう。


 しかし問題は、現実リアルをゲームやラノベ世界と置き換えてしまったことだ。


 イクトの中では、この世界の住人は皆がゲーム世界のNPCだと思っている。

 また美少女の大半は、主人公である自分に肯定派だと豪語していた。


 そういや、俺の前でもよく「ステータス・ウィンドウが表示されないよ」とか「アイテムボックスないの?」とか聞いていたっけ。


 んで、ロイス国王が突き付けた罪状だが――。


 まず他人の民家に勝手に入り込み、家具や壺を壊すなど器物を破損した罪。

 その際に見つけた宝具と金銭など、「アイテムとコイン」と称し強奪した窃盗の罪。

 制止しようとする民や警護兵達に向けて「黙れ! NPCがぁ!」と暴言を吐き暴力を振るい逃走した恐喝と侵入、さらに暴行と公務執行妨害の罪。


 など。


 イクトは初っ端からこれだけのことをやらかしている。

 しかし、それならまだフォローできる範囲だった……。


 それ以降も魔物や魔族を精力的に討伐したまでは良いが、周囲の影響も考えずチート能力を駆使してオーバーキルしてしまったことで、エルフ族の森を焼き払い挙句の果てには近辺の村や町までも崩壊した。

 日本の法律でも、立派な環境破壊行為と建造物損壊の罪だ。


 さらに最後の方で、魔王軍の幹部を葬った時は最悪だった。

 既に敵将が消滅していたにもかかわらず何度も強力な破壊魔法を撃ち放ち、大地を破壊させ都市を陥落させたのだ。


 その時の影響で、罪のない民の中から数名の死者が出てしまうほど……もう立派な無差別大量殺人行為にテロ活動だと非難されても仕方ない。


 こうした各国や地域でのやりすぎ行為から、皆イクトのことを「第二の魔王」と畏怖するようになった。

 またイクトがやらかした賠償金と復興費として、総額1000億G(日本円にして1000億円)の支払いが、奴を召喚したフォルセア王国の責任として請求されてしまう。

 

 当然、ロイス国王は憤怒MAXと化し、俺ら勇者パーティが強制的に呼び戻されたというわけだ。

 

 無論、イクトの暴走を止められなかった俺達にも非があるだろう

 しかし、いくら必死に制止を呼び掛けようとも、奴は決まってこう言ってきた。


「――また僕ゥ、何かやっちゃいました?」


 ああ、思う存分にやってくれたよお前……。

 てか日本でも、やっちゃ駄目な範疇だとわかっているよな?


 異世界での物価の価値、一般の生活レベルや魔法知識を知らない。

それはわかる。

 

 強力な敵を斃すため、女神から与えられたチート能力を見誤って常識破りの暴走をしてしまうこともあるだろう。


 けど、こいつの失敗はそれじゃない。

 全てゲーム世界だと思っていること。


 いくら他人の住居や物を破壊しても、いずれ自然に治るだろうと思い込み、異世界で暮らす種族達も女神がプログラムしたゲームキャラだと認識し命を軽んじている。


 だから別に罪意識がなく、常識も通じず自由気ままに振る舞う。

 これまで何度も言い聞かせ、考え方を改めるように注意したが無理だった。


 決まって「何かやっちゃいました~、テヘッ?」と、すっとぼけられてしまう。

 何かやっちゃった内容を細かく説明しても、次の日には忘れ同じことを繰り返す。

 記憶障害でもあるんじゃないかと疑うほどだ。


 イクトは仲間である俺達パーティも引き立て役か噛ませ犬キャラ程度にしか思っていない。

 特に女子達に対しての接し方は問題だった。


 それまでNPCとか散々言っていた癖に、好みの美少女の前だとラノベ知識を持ち込んできやがる。

 美少女全員が主人公である自分の肯定派だと思い込み、ハーレム願望を剥き出しにチート能力お披露目会をおっぱじめてイキリ出すのだ。


 それ故にやりすぎ行為がより加速し、各地の破壊や命までも奪ってしまう最悪な結果を招いてしまった。

 きっと奴の脳内じゃ、女子らが必死で制止を呼びかける声が、「凄い勇者様ァ、流石ですぅ!」と賛美の声へと変換されてしまっているのだろう。


 現に戦闘中はイキリながら自己陶酔している傾向があった。


 俺からすれば、イクトは完全にサイコパスだと思う。

 おそらく召喚される前も、女神マイファの話を右から左へ聞き流していたに違いない。


 そう思ったからこそ、俺はイクトに自分の正体を包み隠さず打ち明けたってのに……。


 ああ、すまん……自己紹介が遅れたな。


 俺の名は、グレン・ドレーク。

 現在36歳のおっさん。

 巷じゃ不遇職を言われている雑用係だ。


 そしてイクトと同様、嘗て日本という別世界で過ごした記憶と知識を持つ転生者でもあった。



―――――――――――


お読み頂きありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と言う方は、★★★とフォローで応援してくれると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る