不遇職の雑用係おっさん、無自覚チート系イキリ勇者を追放する側となる←実は陰の英雄と知られる最強戦士なので全く問題ありません

沙坐麻騎

第1話 糾弾の勇者



「――勇者イクトよ。貴様を今限り勇者職を剥奪することとする!」


「ええ~、王様ぁ! 僕ぅ、何かやっちゃいましたぁ!?」


 フォルセア王国のロイス国王から処分を言い渡され、勇者イクトは意味がわからないと吃驚した。


「何かやっちゃいましただと? 先程、罪状を述べたばかりではないか……なるほど、アムティアの報告通り貴様はそうやって一年の間、のらりくらりと仲間であるパーティ達に迷惑を掛けてきたのだな?」


「ア、アムティアが? う、嘘だ! 王様、彼女は僕の婚約者だよね!? 魔王討伐したら結婚させてくれると約束したじゃないか! だから僕は頑張って旅しながら戦っていたのに、いきなり呼び戻されて……って、痛いなぁ! 何するんだよぉ!?」


「ええい、黙れ! 貴様ぁ、陛下に対しての口の利き方がなっておらんぞ! 無礼者め!」


「以前は勇者だから穏便に見ていたが、国王へのタメ口は赦さんぞ!」


 イクトの周りを囲んでいた騎士達が、奴の頸部に槍の柄を押し付けて無理矢理に蹲らせる。

 ちなみにイクトは強力な魔力が施されたロープで上半身を拘束され、玉座に着席する国王の前で跪きひれ伏す姿勢だ。


「そんな……こんなの嘘だ。ねえ、みんな……こんなの悪い冗談だよね?」


 イクトは縋るような眼差しを証人として立つ俺達に向けてきた。

 一年間、苦楽を共にしたと思い込んでいる勇者パーティの俺達に対してだ。


「冗談ではない。全て事実の下、父上、いや陛下に報告したまでのことだ」


 ロイス国王の娘にて第五王女の姫騎士アムティアが毅然として答えた。


「イクトくん、キミに嘘をついて王城に連れ戻ったという点は詫びるわ。けど、私達が詫びる点はそれだけよ」


 エルフ族の魔法士エアルウェンが冷たい口調で言い放つ。


「……全部あんたの自業自得」


 パーティ最年少である回復士リフィナが追従する形でぽつりと呟いた。


 仲間達の素っ気ない返答に、イクトは瞳を丸くし耳を疑っている。

 唯一男仲間である俺の方へと視線を向けてきた。


「グレン兄ぃ……嘘だよね? 何かの冗談なんでしょ? みんなで僕を揶揄っているだけとか……実はエイプリルフール的な?」


 問いかけられた俺は首を横に振るう。


「ずっと前から説明しているよな、イクト? 異世界ここは俺とお前が過ごしていた『地球』じゃない。だからエイプリルフールなんて文化はないんだぞ。みんな本気で怒っている。それにもう誰一人としてお前のことを勇者とは思っていない……悪いが俺もな」


「なっ!?」


 イクトは衝撃を受けたのか言葉を詰まらせている。

 次第に顔色が絶望色に染まっていった。


「バカな!? 僕は女神マイファに導かれた勇者だよ! これまで沢山のモンスターを斃し魔王軍の幹部も斃してきたんだ! みんなだって僕の力を認めてくれたじゃないか!? 一緒に旅をして共に頑張ってきたじゃないか!? なのに、どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ!?」


 ついさっき国王から数々の罪状を述べられたのに、まるで理解していないイクト。


 そういうところだぞ。

 パーティ全員がお前を見限った理由――。


 イクトの本名は「鈴木郁斗」。

 女神マイファの導きで召喚された17歳の高校生であり、容姿も若く高身長で童顔系のイケメンだ。

 人柄は悪くなく、寧ろ人懐っこい性格だと思う。


 だが決して善人ではない。

 俺から言えば、「自己中心的なイキリ系無自覚主人公」だと言える。


 かれこれ一年前だ。


 魔王の出現に伴い、フォルセア王国の大聖堂で「勇者召喚儀式」が行われ、イクトはこの異世界に召喚されている。


 奴は神界だかで、導いた女神マイファから説明を受けていた様子で、最初から自分が置かれている状況を理解していた。

 また奴が暮らしていた日本で「異世界転生モノ」が流行っていたこともあり、柔軟に事態を受け入れている。


 しかし常識が壊滅的に皆無だった。



―――――――――――

本日4話まで更新します!

15時→2話

18時→3話

20時→4話


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