神様が死んだ日【46作目】
「勘弁してくれ!」
緊急アラートで真っ赤に染まった廊下を、私は走っていた。今日も平穏無事で一日が終わろうとしている矢先にこれだ。何が華の金曜日だ。世界が曼殊沙華で埋め尽くされるわ。
司令室に飛び込むと、すでにオペレーター達が情報収集に追われていた。その中の一人が私に気づいて振り向く。
「ナナホシ司令官!」
「遅くなってすまない。状況報告を!」
「世界各地で天変地異が同時多発的に発生しています。日本では震度7強の地震が南海地方で発生。北米ではイエローストーンの破局噴火。欧州諸国では暴動が激化、鎮圧部隊は機能を停止。内陸部では至る所で洪水と土砂崩れ、海では竜巻と台風でインフラが壊滅状態です。」
私は報告を聞き、天を仰ぎかけてすぐに止めた。今日こそ世界滅亡の日だとしても、地球防衛軍司令室の代表として私はたった一人になろうとも諦めるわけにはいかないのだ。眼鏡の位置を直すとオペレーター達に指示を出す。
「被害状況から想定される犠牲者数を割り出せ。一番割り合いの大きい地域へ防衛軍を送り込むんだ。人類は石器時代に戻るだろうが、生き残りさえすれば人類はまた復活できる。歴史がそれを証明している。さあ、世界を救うぞ!」
大見得を切る私にオペレーターの一人が言いにくいそうに挙手をした。
「……司令官、その想定犠牲者数なんですが。」
「どうした?」
「0なんです。」
は?
「何度試算しても0人なんです。各地の監視カメラの映像では確かに災害のように見えるのですが、それらは人の生活圏に入る直前で方向転換するんです。」
「で、では実際に被害に遭ったという報告は?」
「数件、この無害な大災害を撮ろうとした野次馬がスマホを落として液晶がバキバキになったそうで。」
私はがっくりと肩を落とした。緊急アラートのパトランプだけが虚しく回っている。
「……今日はこれで解散だ。防衛軍の出動はなし、お前達も残業せずにすぐに退勤せよ。」
私はそれだけ指示して、未だ混乱しているオペレーター達を尻目に来た廊下をひた走った。思い当たる存在を知っているからだ。
数十分後、私が自宅のドアを開けると真っ暗闇な玄関先で血を流して倒れている男が一人。私は革靴を履いたままそいつの頭を思い切り踏みつけた。
「いった?!何すんだナナホシ!」
男は跳ね起きて抗議の声を上げる。電気を点けると、血のように見えたのはケチャップだった。
「勘弁してくれ、神様。」
かくして世界に平穏が訪れた。
(1000字)神様が死んだ(フリをする)日
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