【1000字短編集】神様が死んだ日

鬼非鬼 つー

神様が死んだ日【32作目】

「本日は皆さん待ちに待った『神様が死んだ日』!人類が神様を殺して戦争が終結した記念すべき日です。今、私は都心の収穫祭場に来ているのですが、ご覧下さい。収穫されたばかりの神様が山のように積まれています!それを囲むように調理台が設置されて、さらにその周りを屋台とお客さんが取り囲んでいます。早速インタビューして参りましょう!」

 モニタから流れる収穫祭のニュース。それをBGMにしながら、私は調理実習室で白衣を着て、自分が今日まで育てた神様と向き合っていた。収穫方法は簡単、台座から毟り取るだけ。神様はギっと短い悲鳴を上げて手の中でぐったりする。私は涙をぐっと堪えて神様を水洗いした。

「千歳はどうするの?」

 同じ班の永子が調理法を聞いてきた。定番はお味噌汁だけど、それは家庭科の先生が生徒全員分を拵えてくれている。

「私、は」

 答えようと顔を上げると、ちょうどモニタに来場者が神様のステーキに齧り付いているのが映し出されていた。

「バターソテーにするわ。歯に神様を感じたいから。」

「へえ。あてぃしはね、刺身にしようかと思ってんの。」

「あれ?先生、神様の生食は信仰を失うからダメだって、」

「大丈夫、ちゃんと湯引きして火は通すから。」

 私の心配を他所に、永子は鍋に水を張って沸かし始めた。私は嘆息しつつ、再び自分の神様と向き合う。まず包丁で2cmほどの厚さにスライス。油を大匙1敷いて強火のフライパンに神様を投入。熱で神様が反り返ってくるのをターナーで押さえつけながら両面が狐色になるまで焼く。それから塩と胡椒で味付け。一旦火を止めてからバターを二片、香りが立ってきたらお皿に盛りつける。

「わあ、美味しそう。」

「刺身包丁持ったまま近づくのやめて。あとこれは私の神様だから私が責任持って全部食べるの。」

 永子のまな板を見ると、神様がピクリと動いたように見えたが気づかないフリをした。全然火が通ってないじゃないの。

 今日はこのまま昼食。目の前に神様のバターソテーと神の味噌汁と少な目にしたお弁当が置かれている。

「それでは、自分の神様に感謝して一片も残さず食べ切りましょう。合掌!」

 先生の号令で生徒全員が手を合わせ、叫んだ。

「いただきます!」

 神様自体の味はほとんどしない。繊維質の肉がホロホロと口の中で崩れる食感だけが神様が生きていたことを伝えてくれる。私は涙を流しながら一片も残さず完食した。ありがとう。

 後日、永子は不死になった。

(999文字)

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