第一話 ハイファンタジーの始まり

「おぎゃーおぎゃー」


あーなんだろう?目覚めたとたん俺ギャン泣きしてるんだけど。どういうこと?まあいいや。とりあえず立とう…ん?おかしい、立てない。そういえば俺が死んだところのじゃないよなこの天井。どういうこと?


「あーよしよしよし。かわいいですね~」


ん?もしかして俺、この人に抱えられてる?誰だこの女の人?


「いやーそれにしても無事に生まれてよかったわ」


「そうだね。あなた」


この男の人は女の人の旦那さんか?


「そういえば名前は決めたのか?」


「ええ、決めたわ。この子の名前は…


爽 水谷爽」


「爽か…いい名前だな」


爽君か…いい名前だな。俺も世界って名前気に入ってるけど爽に生まれたかった気も少しするわ。


そう思いながら俺はふと鏡を見た。そして俺は目を疑った。そこには信じられない光景が目に映ったからだ。


え?この女の人が抱えてる赤ちゃんって、もしかして俺?


と、いうわけどうやら俺は異世界転生をしたようだ。

この世界に来てから16年。前までの学校から帰ったら鞄放り投げて魔王の手下倒す生活とはもうおさらばし、今はこの異世界でごく普通の生活を送っている。いや、ちょっと違うか…


「キャー!」


ある日外を歩いていると悲鳴が聞こえた。声の聞こえた方向を向くと、ひとりの女性と、女性ものの鞄を持って逃げるように走っている男がいた。状況から察するにひったくりだろう。

しょうがない。助けてやるか


血液暴…


俺が能力を発動した時だった。


神速


誰かが俺の横をものすごいスピードで通り過ぎた。そして、ひったくり犯のほうを見ると、あら不思議。もう警察に捕まってるではありませんか。


そう、この世界は誰でも能力を持っている。いわばハイファンタジーの世界なのだ。だから正しくは「普通の生活を送ってる」じゃなくて「前とは違う普通を押し付けられて生活をしている」のほうが近いかもしれない。

それに、俺はこの世界でも普通の部類ではない。なぜなら…


「大丈夫ですか?」


俺は、さっきひったくられた女性に声をかけた。


「はい。でも、転んだ時に足を怪我してしまって…


女性の足から、血が出ている。何か命にかかわるような出血量じゃないが、歩くのは辛そうだ。


「そうですか…ちょっと動かないで下さい」


キランリバイブ


俺は、自身の能力で傷をいやした。血は止まり、女性は歩けるようになった。


「すいませんありがとうございます」


「いえいえ。痛みまでは消せないので、そこは注意してください」


俺は、能力を2つ持っている。前世で使ってた血液暴走。そして、現世で手に入れたこの、キランリバイブ。初めてこれに気づいたのは小3のころだ。それまでは俺も両親も俺の能力は血液暴走だけだと思っていた。しかしある日、俺が転んでひざから血を流した時、能力が発動して傷口がふさがった。おかしく思った両親が医者に見せてくれたら、俺の能力がもう一つあることが判明した。

とはいえ能力2つのことは周りにはいってないからなのか、何か困ったことがあったりはしない。周りに言ったら避けられると思うけど。


そんなこんなで異世界に生まれて16年。俺も、前世と同じ年齢だ。このまま前世では経験できなかった青春謳歌して平和に過ごしたいな~。


数日後


カーンコーンキーンコーン


「それでは気をつけて帰って下さい。さようなら」


『さようなら』


めんどくさい授業が終わり、下校時間になった。

今日は放課後予定ないしな…せっかくだしハンバーガー食って帰るか。

そんなことを考えながら帰り道を歩いていると…


「ん?なんだ?珍しいな」


マンホールが空いていた。前世でも現世でもマンホールが開けっ放しなのは見るのが初めてだ。そして、俺は前世で戦いに明け暮れてたからわかる。


「誰か、戦ってる」


なんでわかるか。そう聞かれたなんとなくとしか答えられない。でも、前世での経験が、前野世界としての俺が誰かが戦ってると言っている。


行くか


俺は誰にも見られてないのを確認し、マンホールの中を降りた。


中は歩道と、水の流れる場所に分かれてた。そして、知ってはいたが薄暗くて、臭くて、じめじめしてる。前世でも何回か魔王の手下倒すために来たことはあるが、やっぱりなれないな…


俺はそのまま気配のする方向へ歩き出した。しばらく歩くと、少しだけ広い空間へと出た。


ドカーン!


俺がそこに入った瞬間、爆発が起こり、誰かがこっちへ飛んできた。


「あ、大丈夫ですか?…」


その人を見て俺は驚いた。なぜなら…


「え?白星さん?」


「あ、水谷さん…」


クラスメートの白星蛍だったからだ。白星さんは、結構おとなしく、誰とも話さないので、俺はあまりかかわったことがない。でも、だからこそこんなところで何やってるのかが不思議だった。


「え?こんなところで何やってんの?」


俺が白星さんに聞くと


「あ?なんだ援軍か?」


それなりに離れた距離からガタイのいい男が話しかけてきた。


「ああなろほど。あいつと戦ってたのか」


俺は再び、白星さんのほうを見た。よく見ると右手から血を流している。


「右手、治しとくな」


「え?治すって…」


キランリバイブ


すると、白星さんの右手の傷口がふさがった。


「え?もしかして、水谷さんの能力?」


「ああ、これ結構便利なんだよね。痛みは俺には何ともできないからそこだけ注意して」


「おい、俺を無視するとはいい度胸だな」


男がこっちに言ってきた。


俺がふと下を見ると、そこには刀が落っこちていた。


「これ、白星さんの?」


「あ、うん。私の」


「そうか…ちょっと借りるね」


そういって俺は刀を拾った。


「ちょっと待って?まさか戦う気?」


「ああ、当たり前じゃん」


「ダメだよ。戦闘向けの能力じゃないんだし。早く逃げて!」


白星さんが、声を荒げていった。学校だとこんなイメージなかったから少し驚いた。


「でも、もし俺が逃げたら白星さんどうするの?あいつに勝てる?」


「それは…」


「もしここで俺が逃げて、白星さんに万一のことがあれば俺は死ぬまで後悔する。あの時逃げなければ、あの時戦っていればって。それ引きずり続けて生きていくのは、俺はヤダ。だから、俺は戦う」


「でも、無理だよ。水谷さんの能力じゃ」


「ああ、確かに、無理だ」


「こそこそ何やってんだよ!」


男がこっちに向かって走ってきた。


「でも、これなら勝てる」


血液暴走


俺が能力を発動すると、腕から血が流れてきた。


ゲヘナブースト


俺は地面を力強く蹴った。そして…


ジャキン


俺は男をすれ違いざまに切りつけた。世にいう居合一閃ってやつだ。


男はそのまま血を流して倒れた。あの傷の深さだ。死んだな。

ゲヘナブーストは俺の持つ最速の技だ。前世だと銃刀法違反とかがめんどくさかったから素手で戦ってたけど、やっぱり武器持った方がいいわ。刀持って戦うの、少しあこがれてたんだよね。それにしても、現世で初めてまともに戦ったけど、意外といけるもんだな…


「あ、刀返しとくね」


俺は白星さんの近くまで行き、刀を返した。


「怪我はもう大丈夫か?」


「うん。ありがとう」


「いやいや。たいしたことないよ」


「そう…」


「じゃ、俺帰るね」


そういってその場を後にしようとしたその時


「あ、待って」


白星さんが俺を呼び留めた。


「ん?どうかした?」


「水谷さんって、戦いに自信ある?」


「ん?ああ、まぁ、それなりに…」


世界救える程度には…


「だったら…」


白星さんは一つ間を開けて言った。


「私たちと一緒に、戦ってください!」

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