第38話 さよなら

 「さよなら、だね」


 彼女は言った。俺は少しだけ、こんなことなら高校生の時に別れた方がよかったかも、なんて思う。


 高校卒業後、家業を継いだ俺と、大学に行くために上京した彼女。離れる時は「遠距離なんて俺たち二人の壁になんてならない」なんて無邪気に東京へ送った。


 だけど四角いディスプレイで重なっていく言葉は徐々に離れていった。慣れない社会人生活にあくせく働く俺と、勉学をしながらも東京にはしゃいでいる彼女とは送られる文字がどうしようもなく離れていった。送られてきたこのあたりじゃ到底見られないやたら綺麗なパフェと俺が送れる田舎の月じゃなんかもうどう、しようもなかった。


「実家に戻ってきた時は、顔くらいだしてくれよ」


「うん、もちろん」


「明日帰るんやろ?駅まで送るよ」


「ううん、大丈夫」


 大丈夫、か。まあ会うことはほとんどないしな。彼女が見えなくなるまで見送って、ふとメッセージを見てみる。「おはよう」と「おやすみ」だけが最後は重なった。終わらせるなら、たしかに「さよなら」が妥当だろう。

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