第25話 きっと君は知らない

 毎週末、私は電車に乗って、おばあちゃんの家に行っている。ちょっと山奥にあるおばあちゃんちに。この時期、おばあちゃんの家には、シオンの花が咲き乱れる。薄紫の可憐な花が。おばあちゃんが植えたのだ。おじいちゃんが死んじゃってから。


 もう半分ほったらかしの庭を、私は草むしりがてら、シオンの花を丁寧に切っていく。


「まだスイカがあるでね。」


 おばあちゃんが縁側に、スイカを運んできてくれた。


「ありがとう。」


 労働後の体に、スイカの瓜の甘味が染みわたる。おばあちゃんはスイカの種を庭に吐き捨てていく。


「おばあちゃん、スイカも芽がでちゃうよ。」


「シオンが勝つさね。大丈夫だ。」


「もー。また私の仕事が増えちゃう。」


 そう言って、縁側で笑った。


 帰りの電車では、私は両手いっぱいのシオンを持って帰る。最初は怖かったけれど、すこしずつ、大丈夫になってきた。


 そして次の日、私は君の机の上に、シオンを飾る。夏休みを超えられなかった、君の机に。きっと、今日もおばあちゃんはおじいちゃんの仏壇に飾っているのだろう。


 シオンの花言葉は「君を忘れない。」


 花が咲き誇っている間、私は君の机に飾るよ。ピンクになり切れない、薄紫の、小さな想いを乗せて。

 

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