第9話 桜の花びら

 美しく積もったうすピンクの絨毯も、素足で踏んでみると冷たかった。


「大丈夫だよ。」


「心配しなくていいよ。」


「焦らないで。」


「私は、貴方の味方だよ。」


 そう、人に言ってあげられる言葉を自分自身に言ってあげられないのは、ただの子どもだ。


 私はただ拗ねているのだ。拗ねて、いいと自分自身に思っているのだ。


「ばかだなぁ。」


 なんて、言っても笑いが出てこない。笑いも、愛情もきっと余白なんだ。余白がないと人は人を愛してあげられないんだ。


 今、少しだけ私はいっぱいいっぱいなんだ。それだけだ。


 ずっと立っていると、花びらもじんわり温かくなってきた。


 春の夜風は冷たい。けれど、家の中の方がきっともっと冷たい。


 愛情は有るはずなのに。


 さあ、いい加減靴下をはいて家に帰らなければ。


 ああ、花が落ちた桜も美しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る