第21話

「はなよめしゅぎょうです」

「……はい?」


 リリィの頓珍漢な答えに、テレビのリポーターの目が点になった。

 これ、生放送だったら放送事故だぞ。

 

「彼女、日本語、習いたてなので……語学留学に来ています」


 俺は慌ててフォローを入れる。

 頼むから、この部分はカットして欲しい。


「な、なるほど。……お名前は?」

「アメリア・リリィ・スタッフォードです。イングランドからきました」

「イングランド、へぇ、イギリスから! 日本語、お上手ですね!」

「それほどでもあります」


 ふふん、とリリィは得意気な顔をする。

 変になりかけていた雰囲気が和む。


「語学留学ということは、ホームステイでしょうか?」

「はい。かれの、おうちで、ホームステイ、してます」

「へぇ。仲が宜しいんですね?」

「はい。らぶらぶです」

「おい、リリィ……」


 変なことを言うな。

 誤解を招くだろ!


「お二人の出会いの切っ掛けは?」

「きょねん、そーた……かれが、イングランドに、りゅうがくに、きてました。そこで、あいました」

「イングランドで? ということは、もしかして追いかけて来たと言うことですか?」

「まあ、そんなかんじです」


 ……リリィ、意味分かって答えてるのか?

 

「今はデートの帰りですか?」

「そうですね」

「どちらまで?」

「あさくさです」

「浅草! いいですねぇ。食べ歩きとかは、されましたか?」

「はい。おっぱい、たべました」

「……おっぱい?」


 最悪のタイミングで最悪の間違いしたな……。


「いっぱい、な?」


 俺はフォローを入れる。

 間違いに気付いたリリィは、頬を赤らめ、咳払いをした。


「ちょっと、いいまちがえました。カット、してください」

「あ、はい」


 リポーターは苦笑しながら、続ける。 


「明日はどちらに? ご予定はありますか?」

「つきじじょうがいしじょう?につれてって、もらいます」

「築地ですか! あそこも食べ歩き、有名ですもんね」

「らしいですね。たのしみです」


 ……何だろう。

 胸騒ぎがする。


「どうでしょう? 明日、お二人のデートを密着取材させていただけませんか?」

「いいですよ」

「ちょっと、待ってくれ」


 俺は慌てて会話に割り込んだ。

 密着取材?

 冗談じゃない!


「なんですか?」

「それだけは、勘弁してくれ」 


 これだけ短い取材の間に、いろいろと誤解を招きかねない、意味の分からない発言をしているのだ。

 一日も取材されたら、何をリリィが溢すか分からない。

 あれこれ切り貼りされて、あらぬことを全国放送されたら困る。


「いいじゃないですか。いちにち、くらい」

「リリィ、俺は君と、二人きりで過ごしたい」


 俺はリリィの手を握り、じっと目を見つめる。

 お願いだから!


「そ、そうですか……?」


 リリィは恥ずかしそうにもじもじする。

 それからテレビに向き直った。


「もうしわけ、ありません。かれが、ふたりきりが、よいそうです。しゅざいは、なしです」

「そうですか……。申し訳ありません。デートを邪魔してしまって」

「いえいえ。おきになさらず。たのしかったです」

「では、お幸せに!」


 こうしてテレビ局の取材は終わった。

 さすがにこの内容じゃあ、没だろう。

 ……没だよな?

 没になってくれ。




 

 後日。

 その番組で俺たちは「国際ラブラブ高校生カップル」として全国放送された。


 ふざけるなよ。

 フェイクニュースだろ!!



_______________



作者Twitter(https://twitter.com/sakuragi_sakur)で口絵①②③④を公開中です。

①は2話、②は8話、③は10話、④はカクヨム未掲載のシーンです。


「リリィちゃん可愛い」、「面白い」、「フェイクニュースを流す卑劣なマスコミを許すな!」という方は

フォロー・評価(☆☆☆を★★★に)して頂けると、

「国際ラブラブ高校生カップル」がトレンド入りします。

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