第17話

 リリィが日本にやって来て、三週間ほど経過した。


 すでに学校では美少女留学生、アメリア・リリィ・スタッフォードの名は知れ渡っている。

 男子から羨望の眼差しで見られているリリィであるが、不思議と告白されたりとか、ラブレターを貰ったりということはない。


 何でも、リリィは恋人がいるらしい。

 リリィはその恋人を追いかけて、日本にまでやって来たとか。


 公衆の面前で「こいつは俺の女だ」と口にするような独占欲の強い男で、リリィとは毎日英語でイチャイチャしているらしい。


 イッタイナニモノナンダロ―。


 そんなリリィだが、日本での生活はかなり慣れて来た様子だ。

 日本語も日に日に滑らかになって来ている。


 もちろん、文化の違いで戸惑うことは多々ある。


 例えば、直近で言えば餡子に困惑していた。

 チョコレートだと思ったのに……。

 豆を砂糖で味付けする? 正気か? 

 そんな感じだ。


 だが「これはこれで美味しい」という結論に達したようで、良く食べている。

 最近はコンビニで日本の和菓子や、菓子パンなんかを買うのが楽しいようだ。


 日本の果物やスイーツはレベルが高いと、毎日おやつとして食べている。


 食について寛容なリリィだが、もちろん許せないモノもある。

 紅茶だ。

 日本の紅茶は不味いらしい。

 だったら茶葉を取り寄せればいいんじゃないか? と思ったが、どうやら水と牛乳もダメなんだそうだ。


 日本の水は軟水だ。

 一方、イギリスの水は硬水だ。

確かに風味は変わる。


こちらは最終的に硬水の天然水を購入し、軟水で割ってイイ感じの濃度にすることで対応することにしたらしい。

 ……やり過ぎじゃないか?


 次は牛乳だ。

 牛乳も日本とイギリスでは、味が違う。


 詳しく説明すると長くなるので割愛するが、牛の品種とか、絞った後の牛乳の処理方法――高温殺菌か低温殺菌かで、いろいろ違いが出る。


 ……正直、俺は牛乳が特別好きでもないし、どっちも美味しいんじゃない?と思うのだが。

 リリィとしては飲みなれた牛乳じゃないと、嫌なんだそうだ。

 好みの問題だろう。


 スーパーで大量に牛乳を購入し、「これは全然違う」、「不味くないけど違う」、「近いけど違う」と文句を言っていた。


 最終的にはネットの通販で、好みの牛乳を定期購入することにしたらしい。

 試しに飲んでみたが、確かに美味しかった。

 最初はリリィの小遣いで購入していたが、母さんも嵌ったらしい。

 我が家の御用達、牛乳になってしまった。


 と、まあそんな感じで他にも不満がないわけではないようだが、自分で解決している。

 ホームシックになっている様子はない。


 日本での生活を楽しんでいるようだ。


 問題があるのは、俺の方だ。

 心が休まらない。


 今のところ、裸や下着姿を見てしまうようなイベントには遭遇していない。

 しかし洗濯の時とか、干されている下着を目撃することは多々ある。


 誰か、見せる相手がいるのか? と勘繰りたくなるような、可愛くてエロい下着だ。

 すぐに慣れるだろうと思っていたが、どうにも慣れない。


 服の下はあんなの着ているんだ……とか、思ってしまう。


 下着だけでなく、リリィ本人にも問題がある。

 距離が近く、無防備だ。


 勉強をしている時。

 テレビを見たり、ゲームをしている時。

 読書をしている時。 


 気が付くとリリィが近くにいる。

 運動した後は汗のほんのりと甘酸っぱい香りが、お風呂上りは甘いシャンプーの香りがする。

 ふとした拍子に胸の谷間がチラチラ見える。

 

 勘弁して欲しい。


 ここまで聞くともしかして役得ではないかと思うかもしれないが、別に俺はリリィの恋人ではない。

 リリィに手を出したりなんてできない。

 美味しい料理の匂いだけでは、お腹が膨れることはないのだ。


 そんな悶々とした日々を過ごしていた、ある日。


「はなよめしゅぎょうの、せいかを、みせます!」


 リリィがそんなことを言い出した。


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