第15話

「日本史、どうだった?」


 一限目が終わった後、俺はリリィに尋ねた。

 イングランドでは齧ったこともない内容だろうし、難しい感じも多い。

 理解できたのだろうか?


「おもしろかったです」


 リリィはいつものクールなすまし顔でそう答えた。

 少し機嫌が良さそうに見えるで、これはきっと本当に面白かったのだろう。

 この様子だと、ちゃんと授業内容も聞き取れたのだろう。


 ノートには英文でメモ書きが書かれていた。


「ききとりづらいところも、あったので、あとで、よる、させてください」

「ああ、うん。いいよ」


 夜か……。

 あの恰好で、毎日、距離を詰められるのは辛いんだけどな。

 嫌とは言えないが。


「次の時間は英語だけど……リリィは違うよな?」


 釈迦に説法。

 リリィが今更、英語で学ぶことがあるとは思えない。 

 記憶が正しければ、留学生は別に日本語の授業があったはずだ。


「わたしは、にほんご、です。……このきょうしつ、どこか、わかりますか?」

「そこは三階だな。案内しようか?」

「おねがいします」


 俺はリリィを目的の教室まで連れて行く。

 その道中……。


「(あれが噂の美少女留学生か)」

「(わぁ、超可愛い)」

「(スタイル超いいじゃん。足、長……)」

「(あの子、貴族らしいぜ。確かにオーラが違うよな……なんとなく)」

「(あの銀髪、地毛なの? すごい!)」

「(彼氏、いるのかな?)」

「(噂では、恋人を追いかけて日本に来たらしいぜ)」

「(それって、隣のやつじゃね?)」


 リリィのことはすでに学校中で噂になっているらしい。

 周囲からの視線を一身に浴びていた。


『あの、ソータ』

『うん? どうしたの?』

『み、見られている気がします』


 リリィは居心地悪そうに小声でそう言った。

 頬が仄かに赤い。

 ……注目を浴びて恥ずかしがるタイプだったっけ? 我関せずのイメージがあったが。


『す、スカート……やっぱり、おかしいですか?』


 リリィは足をモジモジさせ、スカート丈を引っ張りながらそう言った。

 どうやら自分のスカート丈が注目を浴びていると、勘違いしているようだ。


『そっちじゃないから、大丈夫』

『……では、何ですか?』

『あれが噂の美少女留学生かー、って感じだな』

『ふーん、そうですか』


 俺の言葉にリリィは満更でもなさそうな表情を浮かべた。

 そうこうしているうちに目的の教室に到着した。


「では、つぎのじかんで」

「ああ」


 俺はリリィと別れ、自分の教室に戻った。


 六十五分、時間が経過し、二限目が終わった。

 次の時間は化学。場所は理科室だ。


「迎えに行くか」


 俺はリリィがいるはずの教室に向かう。

 しかしリリィの姿は見えない。

 入れ違いになってしまったか。

そう思った俺だが、ふとリリィの声が聞こえた。


『いえ、結構です。興味ありませんから』

「サッカー、サッカー部ね。マネージャーっていうのは……」


 さほど、離れていない場所でリリィを見つけた。

 そのすぐ側には三人ほど、男子生徒がいる。


 一人、見たことあるやつがいるな。

 確か、サッカー部のやつだ。

 文脈と状況から察するに、サッカー部がリリィをマネージャーとして勧誘しているようだ。

 そして断られている。


 サッカーは……まあ、興味ないだろうな。ラグビーならともかくとして。

 もっとも、リリィはマネージャーという柄じゃないだろうけど。


「うーん、通じてないのかな……」


 サッカー部員は首を傾げていた。

 多分、通じていないのは彼の日本語ではなく、リリィの英語だ。


「きょうみ、ありません」

「待てよ。話はまだ終わってないから」


 立ち去ろうとするリリィの腕を、サッカー部員が掴んだ。

 リリィはそれを手で払い除ける。

 険悪な雰囲気だ。


「ごめん、リリィ。待たせた」


 俺は二人の間に割り込みながら、そう言った。

 そしてリリィの袖を軽く掴み、その場から離れようとするが……。


「おい、待てよ。勧誘の邪魔するな」


 睨まれた。

 休み時間中は勧誘禁止のはずだろ……と、正論言っても止まらないか。


「彼女、もう、テニスクラブ員だから」


 俺がそう言うと、サッカー部員は悔しそうに表情を歪めた。

 そんなに人手不足なのか? サッカー部は。


「なあ、サッカー部のマネージャーやらない? テニスなんかより、楽しいぜ? 女の子もたくさんいるしさ」


 そして未練がましくリリィを勧誘する。

 マネージャーが欲しいのではなく、リリィが欲しいらしい。

 あわよくばと言う感じか。


『だから……』

「リリィ」

『え、あ、ちょっと……』

 

 今にも噛みつきそうな勢いのリリィを、俺は抱き寄せた。 

 リリィは困惑気味の表情を浮かべる。

 そんなリリィを無視し、俺はサッカー部員に笑みを向けた。


「彼女は俺の女だから」


 空気が凍り付いた。……嘘でもクサ過ぎたか。

 どちらにせよ、サッカー部員は硬直している。


「行こう、リリィ」

『は、はい……』


 固まってしまっていたリリィの肩を押すように、俺はその場から退散した。

 階を跨げば、もう追ってこないかな?


『あ、あの、ソータ。は、離れてください』

「あぁ、悪い」


 俺は慌ててリリィの肩から手を退けた。

 リリィの顔は真っ赤だった。


『助かりました。ありがとうございます。ただ、その……』


 リリィは恥ずかしそうに目を伏せた。


『他人の前で、俺の女というのは、ちょっと……やめて、もらえますか?』


 さすがにやり過ぎたか。

 演技とはいえ、俺も少し恥ずかしくなってきた。


『ごめん。この方が話は早いと思ってさ』

『分かっています。それで何をしに来たのですか?』

『ああ、次の時間。理科室で授業だから。案内しようと思って』

『そうでしたか。では、お願いします』


 そう言うリリィは、なぜか目を合わせてくれなかった。

 ……怒らせちゃったかな?


___________


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