第13話


 月曜日。

 私――アメリア・リリィ・スタッフォードにとって、二度目の登校日。

 初めての体育の授業を終えた後。


「アメリアちゃん。その下着、可愛いね。どこで買ったの?」


 更衣室で着替えていると、ミサトが話しかけて来た。

 テニスで試合して以来、彼女は妙に馴れ馴れしい。

 だが恋敵と慣れ合うつもりはない。


 しかもこの下着はソータの趣味だし、わざわざ教えてあげる義理は……。 

 いや、待てよ?


「えきまえの、ひゃっかてん、です。どようび、そーたといっしょに、いきました」

「へぇー、もしかして聡太に選んでもらったりしたの?」


 ミサトはニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言った。

 私は思わずほくそ笑む。


「そうです。そーたが、えらびました」


 厳密にはソータが選んだわけではなく、ソータが注目していた下着を買っただけだが……。

 それはソータが選んだようなものだし、嘘ではない。

 私の言葉にミサトは大きく目を見開いた。


「へ、へぇ……ソータが選んだの。あの、ソータがねぇ。私よりも先に……」


 ミサトは不思議そうに首を傾げる。

 さすがの彼女も動揺しているようだ。


 一緒に入浴したことがあるだか、なんだか知らないが、今のソータの恋人は私だ。


「これ、聞いていいのか分からないんだけどさ」

「なんですか」

「アメリアちゃんて、もう、聡太とセックスしたの?」


 ふぇ?

 せっくす? ソータと?


 私は自分の顔が熱くなるのを感じた。


『な、なっ……す、するわけ、ないじゃないですか! そんな、ふしだらな……婚前交渉なんて、神様が許しません! そういうのは、結婚してからです』


「ごめん、もっとゆっくり言って。したことないってことで、あってる?」


「あたりまえです」


 私がそう答えると、ミサトはどこかホッとしたような表情を浮かべた。

 エッチなことをしたことがないからといっても、私とソータが愛し合っていることは変わらない。

 この女が入る隙間はない。


「逆にどこまでしたことあるの? キスは?」

「……ないですけど」


 私が答えると、ミサトはにんまりとした笑みを浮かべた。

 勝ち誇ったような顔だ。

 ムカつく。


「ふふ、そうよね。安心したわ。……あの聡太が私よりも先にファーストキスを卒業するなんて、あり得ないわ」


 ミサトは何やら、ぶつぶつと呟いた。

 ファーストキスがなんとか……。

 まさか、ソータのファーストキスを狙っているのだろうか?


「あなたにはあげません。そーたは、わたしのものです」


 私がそう宣言をすると、ミサトはきょとんとした表情を浮かべた。

 そしてしばらくしてから、噴き出した。


「そ、そう! そ、そうね……ふふ、頑張ってね。私に先を越されないように……っくく」


 っく……馬鹿にして!

 いや、落ち着け、私。

 今、ソータと一緒に暮らしているのは、恋人なのは、私だ。

 優位に立っているのは私だ。

 この女の言葉は全部、負け惜しみ。


 私は自分に言い聞かせながら、制服を着る。

 それにしても……。


「そのスカート、あたらしくしたら、どうですか?」


 私がもらった制服のスカート丈は、膝を覆い隠すくらいの長さがある。

 しかし私以外の女子生徒は、みんな膝を出している。

 特にミサトはスカートが短い。中身が見えてしまいそうだ。


 いくら日本人が物を大切にすると言っても、限度があるだろう。

 成長に合わせてスカートを買い替えるべきだ。


 私がそう伝えると、ミサトは苦笑いを浮かべた。


「これはあえて短くしてるのよ。わざとよ。古いのを着ているわけじゃないの」

「あえて? ……どうしてですか?」

「こっちの方が、可愛いでしょ? 脚も長く見えるし」


 ミサトはそう言いながらスカートを摘まんだ。

 ふしだらなだけだと思うけど……。


「テニスのユニフォームだって、ミニスカじゃない」

『あれは中にアンダースコートを履いています。それに元からそういうデザインです』


 ミニスカートをミニスカートとして履くのはおかしくない。

 だがロングスカートをミニスカートに変えるのはおかしい。


 私が英語でそう主張すると、ミサトは負けずに言い返してきた。


「あえてデザインを変えるのが、お洒落なのよ。日本の女子高生では、こういうのが流行っているの」

『ふーん、そうですか』

「アメリアちゃんも、短くしてみない? 絶対、可愛いと思うけど」

『私はイングランド人です』

「そう? 残念」


 ミサトはなぜか、がっかりした様子で肩を落とした。

 人のスカート丈なんか、どうでもいいと思うけれど。


「聡太は多分、短い方が好みだと思うけどなぁー」


 むっ!


『そんなはずありません』

「聡太がそう言ったの?」

『それは……』


 確かにテニスをしている時、たまに脚に熱い視線を感じるような……。

 ユニフォームも「可愛い」って褒めてくれたし。

 まさか……。


「聡太は脚フェチだよ」


 なっ!


『ど、どうしてそんなこと、知ってるんですか?』

「どうしてだと思う?」


 ニヤニヤとミサトは笑みを浮かべながら言った。

 くっ……!


『信じません!』

「そう。アメリアちゃんの勝手だから、いいけどね。じゃあ、私は一足先に教室に戻るから」


 ミサトはそう言いながら更衣室を出て行った。

 残された私は、思わずスカートを摘まむ。


 ……本当に短い方が、好きなのだろうか?

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