第12話

「……じゃあ、青?」


 リリィの髪は美しい銀髪だ。

 赤のような暖色系よりは、寒色系の方が合う気がする。


 俺がそう伝えると……。


『何を本気で答えているんですか? 気持ちが悪い。ジョークに決まっているじゃないですか』


 この女……。

 答えなかったら答えなかったで文句を言うくせに。


『……でも、一理ある気がします。参考にしてあげることにしましょう』


 リリィは早口でそう言いながら赤色の下着を戻した。

 それから青色の下着をじっくりと観察し、それから首を傾げた。


「サイズのみかたが、わからないです。……しってますか?」

「知ってるわけないだろ」

「ですよね。しってたら、きもちわるいです」


 リリィはそう言ってから近くを通り過ぎた店員に声を掛けた。

 リリィに声を掛けられた店員は、僅かに表情を引き攣らせる。


 やべぇ、外国人に声を掛けられちゃった。英語、わかんねぇよ……。

 そんな顔だ。


『ソータ、通訳いいですか?』

『日本語で話せるだろ?』

『サイズが正しく伝わるか、分からないじゃないですか』


 リリィはそう言ってから、俺の耳元に唇を寄せた。


『私のサイズは上から――インチです。センチだと……』


 リリィの吐息が俺の耳を擽る。

 内容が内容だからか、変な気分になりそうだった。


『よろしく、お願いします』


 リリィは少し赤い顔で俺にそう言った。

 恥ずかしいなら自分で言えよな……。


「あー、えっと……彼女は……」


 俺は女性店員に向けて、リリィの言葉を伝える。

 見知らぬ女性に対して、自分の女友達の胸のサイズを伝えるという意味の分からないシチュエーションに俺の頭がおかしくなりそうだった。

 

「なるほど。よろしかったら、実測してみませんか?」


 俺という通訳がいることに安心したのか、調子を取り戻したらしい店員がそう提案してきた。

 そうか、その手があったか。


「では、はかります。よろしくおねがいします」

「それではこちらに……」


 リリィは店員に試着室へと案内される。

 当然、俺は置いていかれる。

 ランジェリーショップで一人で待つのは難易度が高かったので、俺はテナントの外でリリィを待つことにした。


 しばらくして、満足そうな表情を浮かべたリリィが戻って来た。


「まえより、おおきくなってました。はかるの、だいじですね」

「あ、あぁ……そう」


 そうか、あれよりも大きいのか。

 やっぱり、スタイルいいなぁ……。


 思わず視線がリリィの胸元に向いてしまう。

 するとリリィは眉を顰めた。


「イヤらしいめで、みないでください」

「……別に見てない。そもそも、報告してくるな」


 サイズを報告されたら、気になっちゃうのが自然だろ……。

 



 それからあれこれ日用品など――肌に合いそうな化粧品や石鹸などを購入し終え、時刻は十三時頃になった。


「そーた、おなかがすきました」


 リリィはやや不満そうな声でそう言った。

 このままだと八つ当たりされそうだし、腹が空いているのは俺も同じ。


「昼食にしようか。何が食べたい?」

「ほんばのおすし、たべたいです」


 待ってましたとばかりにリリィはそう言った。

 寿司と言っても、回らない店と、回る店がある。


 せっかくだし、回らない寿司屋の方が良いだろうと思ったが、リリィの方から回転寿司チェーンが良いという要望が来た。

 どうやら、リリィが親から貰っているお小遣いは決して無限ではないらしい。


 考えてみれば、俺がイギリスでリリィと一緒にいった寿司屋も回転寿司チェーン店だった。

 

 あそこも不味いわけではなかったが、日本の回転寿司チェーン店の方が美味しい。

 それに回転寿司は寿司以外にも、揚げ物やラーメン、デザートなどのメニューも豊富だ。

 リリィもその方が楽しめるだろう。


 というわけで、回転寿司に連れていくことにした。


『これが日本のお寿司! イングランドと全然、違いますね!! 知らないお魚ばかりです!!』


 リリィは流れる寿司を見ながら、目をキラキラさせた。


 イギリスの回転寿司メニューは、日本人には寿司とは認め難いモノが多かったが、リリィにとってはそれこそがSUSHIなのだ。

 それと比較して、いろいろ異なる部分が多い日本の寿司は新鮮に見えるのだろう。

 

「このおさかなは、 おいしい、ですか? どんなあじ、ですか?」

「うーん、そうだなぁ……」


 リリィはあれこれと俺に寿司ネタについて尋ねてきた。

 できるだけ答えるように努力するが、俺も寿司や魚に詳しいわけではない。


「気になるなら食べてみれば良いんじゃないか?」

「それもそうですね!」


 俺の適当な返しになっとくしたのか、リリィは片っ端から寿司をタッチパネルで注文し始めた。

 それをパクパクと食べていく。

 

「これは……しってます。からあげ、ですよね? フライドチキン!」

「唐揚げだけど、鶏じゃないな。蛸だ」

「たこ? とりのいっしゅですか?」

『Octopus(蛸)。唐揚げは鶏だけに限らないんだ。魚もある』


 俺がそう答えると、リリィは驚いた様子で目を丸くした。


『へぇ、蛸の揚げ物……! 気になります』


 そう言って注文する。

 そして届いた蛸の唐揚げを恐る恐る箸で摘み、口に入れる。


「どう?」

「おいしいです。これ、すきです」


 口に合ったようだ。

 それからリリィは茶碗蒸し(しょっぱいプリン)に目を丸くしたり、唐揚げと天ぷらは何が違うんだと言いながら海老天を頬張り、これも食べたかったとうどんと蕎麦に舌鼓を打ち、そして変なゼリーだと首を傾げながら葛餅も完食した。


「ごちそうさま、です。……おいしかったです」


 リリィは満足そうな表情でそう言った。

 彼女の目の前には寿司皿が高く積みあがっている。

 一見すると俺の一・五倍程度に見えるが、実際は蕎麦やうどんなど量が多いメニューも食べているので、摂取した総重量は倍以上だ。


 ……こんなに食べるのにどうして太らないんだ?

 やはり胸に栄養が行っているのか?




 その日の夜。 

 リリィが例の下着を着て、俺に迫ってくる夢を見た。


 女友達を相手にそんな夢を見るなんて。

 もしかして俺は性欲が強く、見境ないのだろうか?


 俺は少しだけ、自己嫌悪した。




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次回以降、週に二~三話の更新になります。



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