第11話
朝食を食べ終わる頃、母が帰って来た。
モゾモゾと朝食を食べる母に「リリィと服を買いに行く」と伝えたところ、「せっかくだし、お昼に美味しいものでも食べてきなさい」と小遣いをくれた。
そして朝食後に「私は寝るから」と寝室に向かう母を見送り、俺たちは買い物に行くことにした。
「では、いきましょう」
白い清楚なワンピースを着たリリィは俺にそう言った。
リリィがイギリスから持ち込んできた、数少ない私服だ。
お気に入りなのだろう。
「あぁ。……ところで、それ、寒くないか?」
まだ四月の初旬。
日が出れば温かいが、空気は少し肌寒い。
季節外れというわけせはないが、もう少し暖かい恰好をした方が良いのでは?と思わないでもない。
「そうですか? にほんは、イングランドとくらべると、あたたかいので。こんなものかなと」
確かに日本とイギリスならイギリスの方が寒い。
俺はまだ肌寒く感じるが、リリィには「もう暖かいし、春真っ盛り」という気温なのだろう。
「それとも……へん、ですか?」
「まさか。似合ってるよ。すごくかわいい。『可愛いよ』」
顔立ちもスタイルも完璧な美少女であるリリィには、こういうシンプルなデザインの服が似合う。
リリィにしか着こなせない、とも言えるが。
俺が褒めると、リリィの頬が赤く染まった。
白いワンピースを着ているせいか、普段よりも肌が赤く見えた。
『変でなければ、結構です』
リリィは小さく鼻を鳴らした。
「よいかいものができました」
一通り服を買い終えたリリィは上機嫌な表情でそう言った。
俺は正直、疲れた。
あれこれと試着するたびに、リリィが俺に感想を求めてくるからだ。
同じ感想を口にすると「それはさっきも、ききました」と返してくるので、服が変わるたびにしっかりと考えないといけない。
一着や二着なら別に構わないが、十着を超えると疲れる。
「つぎ、いきましょう」
「次は何を買うんだ?」
まだ何か買うのか。
と、言いたかったがグッと堪え、俺はリリィに尋ねた。
「えっと……」
リリィは適切な日本語が浮かばないのか、しばらく考え込み、それから辺りを見渡す。
そして目当ての店を見つけたのか、店舗を指さした。
「あれです」
「あ、あぁ……うん、なるほど」
リリィが指さしたのは女性向けのランジェリーショップだった。
つまり下着だ。
なるほど、確かに重要だ。
一日に最低、一度は変えないといけないから、数もいる。
「いきましょう」
「えっと……俺も?」
「とうぜん、です。わたし、にほんご、わかりません」
リリィは冗談めかした口調でそう言った。
下着買うくらいなら問題ないレベルの日本語力はあると思うのだが……。
「ひとりだと、ふあんです……」
リリィは顔を俯かせ、それから上目遣いで俺を見た。
こういう顔をされると、嫌とは言えない。
「わかった。……付き合うよ」
俺はリリィの後を追うような形でテナントに入る。
テナントはどこを見ても下着ばかり。
不思議とマネキンもエロく見える。
モデルの女性も半裸だから、目のやりどころに困る。
あ……あの人、リリィに顔立ちがちょっと似てるな。
リリィも服の下にはああいうのを着ているのだろうか……いや、俺は何を考えているんだ。
「……なに、みてるんですか?」
モデルの写真を眺めていると、隣から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「いや、別に。何も見てないよ」
「うそ、です。イヤらしいめをしてました。……わたしとの、デートに、なにをかんがえてたんですか?」
イヤらしい目って……。
別にそういうことを全く考えていなかったわけじゃないけどさ。
「リリィに似てるなって、思ってただけだ」
俺がそう答えると、リリィはその青い瞳を大きく見開いた。
みるみるうちに顔が赤くなっていく。
しまった、正直に言い過ぎた。
セクハラだと訴えられても文句は言えない。
「あー、いや、別にその、変な意味じゃ……」
『だったら、私を見てください』
リリィはこちらを睨みつけながらそう言うと、頬を背けた。
そして小さく鼻を鳴らす。
怒っている……わけではなさそうだ。
どちらかと言えば照れているように見える。
……モデルと顔が似ていると言われたのが、嬉しかったのだろうか?
『(ああいうのが、好きなんですね……)』
リリィは赤らんだ顔のまま、英語?でボソボソと何かを呟いた。。
そしてセクシーなポーズをしているモデルの写真へと……否、そのすぐ側で売られている下着――モデルが着用しているものと同じ――を手に取った。
「そーた」
「……なに?」
「どちらがいいとおもいますか?」
リリィは赤色の下着と青色の下着を手に持ちながら、俺にそう尋ねた。
……いや、俺に聞くなよ。
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